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虫籠の中のわたし

小さな虫籠の中に囚われていて
その中には蜘蛛が巣を張り巡らせている

わたしはその中で暮らす蝶で
外に出ることはできない

蜘蛛の巣はあらゆるところに張り巡らされていて
素敵な色な魅力的な匂いでわたしを誘惑する

わたしは本能的に知っている
あそこへ行ってはいけないと

でもこの狭い閉じられた世界の中で
四六時中恐怖と対峙することに疲れ果ててしまう

わたしは心の声を閉ざし
お腹の中で鳴り響く警告を無視することにする

蜘蛛の甘い言葉に誘われて
蜘蛛の巣のベッドに横たわる

そこは柔らかくて心地が良い
なんだかネバネバするけれど暖かくて安心する

ここにいればもう恐怖に逃げ惑うこともない
蜘蛛に執拗に追いかけられることも
蜘蛛の強い怒りに触れることもない

狭い虫籠の中で暮らすには
ここが一番安心できる場所だった

たとえ蜘蛛の巣に絡めとられて
体が自由に動かなくても‥
体が少しずつ溶かされて
養分を吸われていって
逃げ出す気力も奪われていったとしても‥
少しずつ死に近づいていったとしても‥

幼いわたしにとって
そこが一番安住の地だった
わたしはそこでしか生きられなかった

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