夏が終わるんだね

またひとつ、何かを落とした気がする。
歩くほどに、服が揺れるごとに、ポケットの中で貰ったビスケットを握りしめるから、割れて、粉になってビニールに張り付いている。
今夜の空はどこまでも真っ暗闇だ。星はもう埋もれた。
道草は夜でも意気揚々と青臭っている。僕はそれを踏んで歩く。

夏祭りは終わった。この辺りで行われる夏祭りのなかでは一番小さいけれど、一番明るくて暖かい祭りだった。瑞希はつまらなさそうに下を向いて、デニムパンツの裾を擦り合わせながらゆらゆらと歩いていた。

「終わっちゃったね」
なんてつまらない一言だろうと思いながらも。言わずにはいられなかった。
「そうだね、また来年だぁ。」

瑞希は別のことを考えているのか、あるいは残念な気持ちを隠したいのか、気のないぶっきらぼうな言葉を投げた。

沈黙

来年来るかどうかなんて分からない。年が増すとこういうイベントを少しめんどくさく感じるようになっていくみたいだ。今年も、瑞希との会話でこの祭りが挙がった時、一番初めに思い浮かんだのは靴の中に小石が入ってイライラすることだった。あー、来年は行かないだろうなぁ。
目をやれば、瑞希は視線を真っ直ぐに歩いていた。
その眼は明後日の方を見て、どこにも焦点が合っていない。まるで人形のように心ない目をしている。

「瑞希」

目を覚まして、こっちを見て、

「次空いてる日いつ」

「明後日。」

「花火しようよ」

瑞希は眉をあげてこちらに向いた

「する」

笑ってよ。もう、それだけでいいよ。

「どこでしよっかぁ」
「公園じゃなんか言われる?」
「知―らね」

君だけでいいんだ。

瑞希が縁石から下りて来る。
隣を歩く。


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