宇津保物語を読む2 藤原の君#12
仲澄、あて宮に歌を贈るが返歌なし
こうして四月になった。
侍従の君(仲澄)は、まだあて宮に対するお気持ちが残っていて、“なんとかして”とお思いになるけれど、このお二人は、兄妹なので、あってはならないことではあるが、どうしても忘れることができず、このように歌を詠かけなさる。
海のように深い私の思いを、
わが身一つの中に納めることができるのならば、
こんな甲斐のない言葉を伝えることはないでしょうに。
あなたを諦めることができるのならば、こんなことはしないのに。」
と申し上げなさる。
あて宮はご返事申し上げることはない。
その夜、侍従は簀子でお休みになって、女房たちと話しをしながら、
「不思議に、明けない夜ですね。」
などとおっしゃると、ホトトギスが何度も鳴く。中納言の君が
「鳴く一声(に明くる東雲)と、いいますのに。夜が明けぬとは不思議なことをおっしゃいますね。」
というので、侍従の君は
その時は一声で夜が明けたというのに、ホトトギスよ。
度々鳴いても、まだ暗いままの東雲の空。
少納言の君は、「みなさん、今夜は」などといって
ホトトギスよ。旅寝する夜の東雲は
明けてしまうのが惜しいものなのです。
またの日の朝、蜘蛛が巣をかけている松で露に濡れているのを取って、あて宮がお休みになっているのを見て申し上げる。
私の心も知らず、どうしてお休みになっているのでしょう。
私は起きたまま朝を迎えたのに
寝ていられるのは、うらやましいことだ。」
と申し上げる。あて宮は聞かないふりをして、何もおっしゃらない。
実忠はじめ懸想人たち、あて宮に歌を贈る
例の宰相(実忠)は、志賀に参詣なさって、そこからこのようにお手紙を送る
「ここ数日は山籠もりをしております。
辛いことを思って山に入ったわけではありませんが、
深い山辺をどれほど見たことでしょう
と申し上げなさる。
あて宮
何度も繰り返し置く露のような短い間に
あなたの誠意がつもり山となったならば、頼りとしましょう
また、兵部卿宮からはこのようにお手紙が届く
「度々お手紙を差し上げますのに、気が気ではありませんが、「心に込めて」とも言うようですので。しかし、こう冷淡でいらっしゃる理由を教えていただくことはできないでしょうか。」
といって、
いとい川の滝のように速い瀬が泡と馴染まないのは、
他に結んだ人がいるからなのです。
あて宮
いとい川、結ぶということもわからない心には
泡でなくても、結ぶことはないと思われます
こうしてご返事申し上げるのをご覧ください。」
と申し上げなさる。
右大将(兼雅)から、
「胸に秘めて思っていた時よりも
口に出して言ってしまった後の方が辛い
私の思いを申し上げた人は、あなたにそれを伝えたはずですのに」
とある。返事はない。
中納言(正明)より
夏の衣のように薄い薄情な心だとは思っていたけれど
涙が漏れこぼれそうな頃になったことだなあ。
いつも通りの冷たい心を、不思議と思われて」
などと申し上げる。返事はない。
あて宮の姉の、女御の君がお産みになった皇子も、まだ妻もなく、あて宮を妻にとお思いになるが、つてもなくて手紙を送ることができないでいたが、他の男の手紙にあて宮が返事を送ったなどという噂をお聞きになって、
「このように血縁のないものでさえ返事を返しなさるのに、私こそ、無駄な遠慮をしていたことだ。
噂にばかり聞こえる風が吹き立つ雲のあたりに、
いったいわたしは、どうして住まなかったのでしょう。
くやしいことだ。」
などと申し上げなさるが、お返事はない。
がっつり個性的な求婚者のエピソードの後、インターバル的な求婚者たちとのやりとり。
仲澄は相変わらず。
実定と兵部卿宮は返事がもらえた。
実定は、熱心だし、まじめだし。
兵部卿宮は嫌みったらしいが、身分が高いので、粗略にはできないのかな。
最後に登場した三宮も、ずいぶんと横柄だ。皇族ってのはこうなのかなあ。
次は誰の番だ?
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