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宇津保物語を読む4 吹上 上#15(終)

行政、仲忠、吹上からの品々を人々に贈る

 行政、左大弁の君よりはじめたてまつりて、馬、牛、小鷹一つづつ奉りたり。透箱、大宮の御方に、かづきたりし女の装ひどもは、あて宮の御方の人々に、箱にたたみ入れつつ、書いつけしておこせたり。下仕へばらには、縫はぬきぬなど、人ごとにおこせり。
 仲忠は、大殿に車牛二つ、馬二つ、侍従の君につるぶちなる馬の丈ばかりなる一つ。置口の衣箱一つに、あるが中に清らなる女の装ひ一具たたみ入れ、一つにはうるはしき絹、綾など入れて、わうの君に心ざし、黄金の舟に物入れながら、かく聞こえてあて宮に奉る。
  (仲忠)荒るる海に泊まりも知らぬうき舟に
   波の静けき浦もあらなむ
とて奉りたまへり。
 さて、宮、君だちなど、「ありがたく興あるものかな」とて、ののしりて見たまふ。かくて、集まりて、見ののしりて、「たらばやと思へど、わざとある宝々しきものなり」とて、使には、しらはり一襲、袴一具賜ひて、かくのたまひて遣はす。
  (あて宮)波立てば寄らぬ泊まりもなき舟に
   風の静まる浦やなからむ
とて、返し遣はしたれば、仲忠、いと心憂しと思ひて、(仲忠)「かう聞こえて、御返りごとも賜はらでね」とて奉る、
  (仲忠)さもこそはあらしの風は吹き立ため
   つらき名残りに帰る舟かな
とて奉れつ。
 使帰りぬれば、情けなきやうにもありとて、返したまはず。君だち集まりて、騒ぎたまふこと限りなし。女御の君より始めたてまつりて、小君たちまで、壺、折櫃、袋一つづつ奉りたまふ。大将のおとどは、この人々の奉りたる物どもを、婿の君だちに、馬、鷹一つづつ奉りたまふ。
 かかるついでに、おとど、入道に、(正頼)「源宰相に久しう対面せぬかな」。入道、「この三月一日ごろに、御前の花見たまへむとてまかり出でて、夜更けてまかり帰りたまへりしより、悩みたまふことありて、まかり歩きもせず、殿より召しあれどえ参らで、侍る所になむ籠りはべる」。おとど、(正頼)「いとほしきことかな。えうけたまはらざりけり。この頃見えたまはねば、ふるさとにやものしたまふらむとなむ思ひはベる」などて、仲頼に、女の装ひ一具、馬引き、鷹据ゑたる人に、しらはりばかま賜ひ、仲忠、行政が使にも禄賜ふ。北のおとどに透箱持て参れる行政が使に、摺り裳一襲賜ひなどす。仲頼はうちに急ぎ参りぬ。

(小学館新編日本古典文学全集)

 行政は、左大弁忠澄をはじめ皆に、馬、牛、小鷹を1つずつ差し上げた。透箱は大宮の御方に、被け物としていただいた女装束は、あて宮の女房たちに、箱にたたみ入れて書き付けをして贈る。下仕えたちには仕立てていない衣などをそれぞれに贈る。

 仲忠は、左大将に車牛2頭、馬2頭、侍従の君(仲澄)に鶴ぶちの馬で背丈が4尺8寸ほどの馬を1頭贈る。美しい縁飾りの箱1つには、なかでも美しい女装束一揃いをたたんで入れ、もう一つにはきれいな絹や綾などを入れて、孫王の君(あて宮の女房)に志として贈り、黄金の舟には細々とした物などを入れて、次のような歌を書きつけてあて宮に贈る。

  (仲忠)荒れる海に漂い、港もわからないでいる浮舟に
   波の静かな浦があってほしいものだ。(私の港はあなた)
   (うき=浮き・浮き)

と書いて差し上げる。

 さて、大宮や女君たちは
「みたこともない、興味深いものですわ」
と、大騒ぎをしてご覧になる。そうして、集まり、見ては大騒ぎをするものの、
「いただきたいとは思いますが、私にはもったいない宝物ですので。」
といって、使者には白張りの一襲、袴一揃いをお与えになり、このような歌をつけて送り返す。

  (あて宮)波が立てば、どこにでも停泊する舟には
   風の静まる浦なんてないのでしょうね
    (どこでも波風立てるんでしょ)

と書いて舟とともにお返しになるので、仲忠はたいそうつらいと思い
「こう申し上げて、お返事は受けとらずに帰ってこい」
と命じて、歌を差し上げる。

  (仲忠)そのように、嵐の風が吹いたのでしょうか
    つらい余波のなか、引き返す舟よ

と書いて差し上げる

 使者が帰ってしまったので、薄情に思われてもと、これは送り返すことはしなかった。
女君たちは集まって、大騒ぎすることこの上ない。女御の君をはじめ小君たちにまで、壺、折り櫃、袋をひとつずつ差し上げる。

 左大将殿は人々から献上された土産物を婿の君達に馬、鷹ひとつずつ差し上げる。

 このようなついでに、左大将は入道に
「源宰相(実忠)にしばらく対面していないなあ」
とおっしゃる。
入道「この3月1日ころに、御前の花見をしようと来て、夜更けにお帰りになったときから、お悩みなさることがあって、出歩くこともできず、父上からお召しがあっても参上できず私の所でひきこもっていらっしゃいます。」
左大将「かわいそうになあ。全然知りませんでしたわ。最近姿を見ないので、実家にでもいるのかと思ってましたよ。」
などといって、仲頼には女装束一揃い、馬引、鷹を据えた人には白張り袴をお与えになり、仲忠、行政の使いにも禄をお与えになる。北の御殿に透き箱を持ってきた行政の使いには摺り裳一揃いをお与えになる。仲頼は宮中に急いで参内した。


源実忠は、あて宮の求婚者の一人。脈略もなく登場するのはなぜ?

仲忠はあて宮に舟とともに求婚の歌を贈る。品物を受けとってしまっては同意したことになってしまうので、あて宮はそれを受けとらない。
もとはといえば涼からもらった品である。それでプロポーズしようとはちょっと虫がよすぎるんじゃないかな。

さて、吹上のSeason1はこれで終わり。次回からSeason2(吹上下)。
いよいよ涼の上京です。

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