宇津保物語を読む 俊蔭Season2 #3
若小君自らを語り、娘の素姓を尋ねる。
こうして、不憫にもたいそう心細そうにしている姿をご覧になって、女ことが気になってしまったのだが、まして間近に契りを結んでからは、千倍にも愛情が強くなって、あわれにも愛しくも思われて、親のもとに帰らないことも、なんともお感じにならないけれど、若小君は両親の秘蔵っ子で、ご両親は片時もご覧にならないと、心配し大騒ぎなさるような子である。
女君をこうして近くでご覧になると、片時も立ち離れることはできそうもない。
見捨ててゆくようなことも、心配でしかたがないので、女に
「こうして結ばれた今となっては思い隔てなさいますな。
こうなる運命だったからこそ、このように初めて結ばれたのでしょう。
お世話申し上げなければならないとは思われますが、ご覧のとおり私には親がおります。
片時も御前を離しては下さらず、宮中に参内するときでさえ、心配なものと思っていらっしゃるので、昨夜からこのようにしているのを、どのように思って騒いでいっらしゃることでしょう。
まだこのような忍び歩きなども、ことさらに逢瀬の経験もなく、思い通りには参上することはできそうもないでしょうが、
良い機会があったときには、夜中だろうと明け方だろうと参上しようと思いますが、
あなたは本当にここにいつまでもいらっしゃるのですか。
親はいらっしゃるのですか。
また、私とは別に通う人はいますか。
正直におっしゃってください。」
とおっしゃると、女はとてもひどく物思いが勝る気がして、たいそう恥ずかしいけれど、強いて若小君がお聞きになるので、
「親もおり、世話をしてくれる知人もある身でしたなら、こんなところでかりそめにも一人で暮らしておりましょうか。
このままこの住処で朽ち果てるよりほかのあてもありません。」
というと、
「それならば、どなたと申し上げた人のお子でしょうか。
もし心外にも参上できなかったとしても、ずっとあなたのことは覚えておきましょう。」
とおっしゃると、
「父は誰とも知られていない人ですので、申し上げたとしても誰ともご存じないでしょう。」
といって、そばにある琴をかき鳴らして、そっと涙ぐんでいる様子もたいそう心惹かれるのであった。
前段に引き続き、二人の逢瀬の描写。
お坊ちゃんである若小君は思うように行動することができない。親の束縛から抜け出そうとする気概もないので、敏蔭の娘としてはなんとも頼りない相手である。その気があれば従者を使って娘の身辺を調べさせることもできようが、光源氏の惟光のような従者は彼にはいないのだった。恋物語の主人公としては落第である。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?