人々の帰京に際し、種松豪勢な贈物をする
3月月末になったので、客人たちは帰京なさろうとする。あるじの君(涼)は種松におっしゃる。
「人々の帰京なさるはずの日が近づいていますが、その準備はしていますか。ちょっとしたもので、京土産になるようなものを差し上げたいと思うので、十分注意して準備してください。」
種松
「思いつく限りのものは準備させております。しかし無粋な百姓たちでは都人が興味をひくようなものは考えつきますまい。そうですが、わが君が指示なされば、簡単に思いつくこともございましょう。」
などという。
こうして、種松が準備させたものは、贈り物として、一人につき、白銀の旅籠を一掛、山の風情に細工したものに、唐綾や薄物などを入れて、白銀の馬に沈木の結鞍を置いて、白銀で作った男にひかせたもの。
また沈木の檜破子一掛に、合わせ薫き物、沈木を入れて、同じように沈木でできた男にひかせ、丁字の練り香、ジャコウなどを破子の籠ごとに入れ、薬や香などを飯のような感じに入れて、沈木の男に背負わせる。
蘇枋の簏(竹で編んだ箱)一掛は、さまざまな色の唐組紐を籠に編み上げたものである。それに上等な絹を30疋ずつ入れてから、蘇枋の馬に背負わせて、同じ男にひかせる。
海の形を、白く白銀を散らして鋳造し、合わせ薫き物を島の形にし、沈木で作った木の枝に造化をつけて、その島に植え集めてから、同じように合わせ薫き物で鹿や鳥を作って並べる。趣向を凝らした大きな黄金の舟を浮かべて、それに色とりどりの糸を結び、袋に風流なものを結びつけて、薬や香を包んで、組紐で上を包んで舟のようにし、沈木の折櫃に白銀のコイやフナを作って入れ、白銀、黄金、瑠璃などの壺に、同様のものを入れて、麻紐などでかついでいるようにして、船頭や舵取りを立てた。同じようなものをあとの三人の方にも用意する。
御衣櫃一掛には美しい旅の装束を3日かけて上京なさるだろうから、1日に1着ずつお召しなさいということで3着色とりどりに用意する。
かづけ物としては、女の装束を一襲ずつ用意する。
引き出物は、侍従(仲忠)にはさまざまな毛色の背丈が4尺8寸ほどの六歳の競走馬を4頭、それには蒔絵の鞍橋にヒョウ皮の下鞍、白銀の鐙をつけた鞍を置く。
また黒斑の牛4頭、生絹の絹を白いまま綱にしてつないでいる。
鷹4羽を据えて、白い組紐の大緒、青い白橡を結び立てたフサ、鈴を付けたりなどしている。
鵜4羽、カゴやそれを担ぐ天秤棒もすばらしい。
少将(仲頼)には黒鹿毛の馬で、背丈4尺7寸ほどの若い馬4頭、立派な飴色の牛4頭、鷹や鵜も同数である。
以上はあるじの君(涼)からの贈り物である。
種松からの贈り物は、お一人に簏箱2掛ずつを、立派な馬に背負わせている。御精米をお一人に200石の船二船ずつ、それをお三方に差し上げる。
(絵指示 省略)
種松からの引き出物はストレートに米400石。旅費の工面に汲汲としていた仲頼からしたらばからしく思うほどの大金である。
涼の指図で用意された物は、着物や薬などをジオラマやフィギアに持たせるという趣向である。白銀の男や沈の男がどのくらいのサイズかわからないが、もし等身大であればそれだけで十分なお宝である。本当にこれを都まで持って帰るのであろうか。何にせよ桁違いである。