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ノーリスクな預金で10%のリターンって本当!?

色々な金融商品を見ていると「こりゃすごい、本当か??」と目を疑いたくなることが、時々、あります。

先日、ソニー銀行がやっている外貨定期預金「円から始める限定金利」の米ドルに目が留まりましたので、これについて色々と分析をしてみました。2015年に始まった商品ですが、執筆の現在では、こういう感じに仕上がっています。

・金利:年利10%(税引き後 年7.9698%)
・期間:1ヶ月
・利用回数:制限なし
・利用残高:制限なし
・為替手数料:片道15銭(1000万円以上の残高で同4銭まで低下)
・TTSとTTBの差:15銭
・利用条件:ソニー銀行の円預金口座からの外貨定期預金であること
・継続について:期間後に①普通の定期外貨預金に移管(年金利3~5%ほど)、②外貨の普通預金に移管、③円貨の普通預金に移管、のどれか。

です。HPはこちらですが(https://moneykit.net/visitor/fx/lp01.html)、上記はあくまで執筆時の数字です。過去、年利8~9%はあったようですが10%は最高値のように見えます。過去は、預け入れ残高の制限がある時期もあったようですが現在は取り払われており、預け入れ回数についても制限がありません。1ヶ月後に繰り返しても良いわけですし、なんか凄そうじゃないですか?!少なくとも、私は調べてみたくなりました。

まず、この手の短期間の預金商品では、誤解の無きよう。こちら「10%の年金利」を「1ヶ月分」です。仮に100万円預けて1ヶ月後に10万円増えているのではなく、年利10%の1/12分、税前で8000円程度が増えるとなります。そして為替手数料や為替スプレッドなどの費用が往復で3000円ぐらい、そして税金も引かれます。僕の以下のシミュレーションでは、1ヶ月後に手残りで増えるのは、100万円の預け入れに対して3653円となりました(為替は横ばいとして)。

月利回りでは0.37%となります。ただ、この商品は1ヶ月後にまた同じを事を繰り返してローリングすることに縛りがないので(普通、この手の商品はローリングはできません)、もしも状況が同じで、同じことを12回続けられたら、その利回りは税後で4.47%になります。これは税前ですと5.59%の水準という感じですが、Apple to Appleに比べるためにこの数値をしばらく考えていきます。本日の米国国債1年物の年利回りは4.98%ですので、悪くないですね。

ソニー銀行は1ヶ月といえ年利10%相当の利子を出血大サービスで払っているのは間違いのない事実(ここでは1ヶ月で44ドル、6600円を払っている)、ただ為替手数料やレート差、税金などもあるので、投資家の受け取りは税前10%や税後7.968%ではなく、税前5.6%や税後4.5%が実質的な数値となります。

ネットを叩くと、米国の大手銀行の現地での1年物の預金金利は税前4.5%程度、税率20%とすると税後3.6%ですので、同条件で12ヶ月ローリングという前提を勝手に置いているとはいえ、悪くはない水準だなという印象です。

次に、100万円ではなく1000万円を預けるとして考えてみます。1000万円以上は為替手数料が1/4程度にまで下がるので、ローリングした同年利回りは税後6.3%、税前で8.0%まで上がってきます。

おお、年率8%。これは世界株式指数や米国株式のパッシブ指数の過去の長期利回りと同水準ですね。新NISAでオルカンを買っている人たちも、この年率8%程度を長期で期待している人は多いのではないでしょうか。

これは、、さすがに私としても考えさせられます。米ドル預金の期待リターンが米国株式の期待リターンと同じ水準ということなので。

投資の世界で、基本的にリスクとリターンのトレードオフでものを考えます。預金の利回りが年率8%という高水準であるならば、上下を繰り返す株式やそのファンドなど持つ必要はない、と考えるが自然です。1980年代のバブル時代、日本でも郵便貯金の利回りが8%な時代がありました。「10年預けたら倍になる」なんてお年玉を預けたものでした。

しかも、この外貨定期預金「円から始める限定金利」の米ドルでは、預かり残高の上限はありませんし、1億円もっている人なら、10億円持っている人ならどう考えるでしょうか。実際、1000万円を預けると約5万円、5000万円ならば25万円、1億ならば50万円、10億円なら500万円が毎月、手残りとして入ってくる訳です。金融のプロの人であれば「100億円借りてこの商品を買うポジションを作ったらどうなるか?」のような極端なことを考え、投資案件の本質を考えるでしょう。

ここで目線を、投資家目線から、ソニー銀行目線に変えてみましょう。ソニー銀行は昨年末に外貨預金が6000億円突破とリリースを出していました(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000645.000000157.html)が、昔から外貨預金に強いことで有名です。では、この出血大サービスとも言える案件で、ソニー銀行がどれぐらい損をしているのかを考えてみることにしましょう。以下、100万円の預金で手数料15銭のケースです。

このシミュレーションでは、ソニー銀行は100万円の預金に対して、1ヶ月で約4300円の損をしますね。でも、今までソニー銀行に口座も持っていなかった人が100万円を新規に預けてくれたとしたら、悪い話ではないですね。どんなビジネスでも新しい顧客を一人得るのは楽な話ではなく、Customer Acquisition Cost (CAC)で4300円はかなり安いように思います。1000万円という大口の預金をしてくれる人に12ヶ月ローリングされると、損失は60万円となりました。まあ小さくはないですが、今後、ソニー銀行が、一度入ってきたお客を引き止めて新しい商材を売っていけるのであれば、ビジネスとしては許容範囲かなとも思います。でも損得で入ってきたお客は移り気かもしれませんが。。

さあ、皆さん、この定期預金商品を買う買わないの判断は、どうされますか? 僕自身は、自分のポートフォリオの外国エクスポージャーを、世界株式や世界国債のファンドで取っているので、普段は外貨定期預金は使っていません(海外事業での現地決済用として現地銀行の普通/当座預金は少しある程度)。

ただ、この商品は1ヶ月という短期でお金は戻ってくるし(拘束が少ない)、銀行側もしっかり損をするなどお金の出どころも見えているし、税前「8%」を期待したローリング戦略はありかもしれないです。

ただし、僕が投資の意思決定するときに大事にしている「この投資は誰を幸せにしているんだろう?」というのが、今回の分析だけでは見えません。「投資したお金が、誰かを幸せにする、そしてその一部が自分に返ってくる」。泥臭いようですが、いわゆる「論語と算盤」の両方とも大事にするのが僕の投資哲学です。つまり、ソニー銀行さんの経営方針をしっかり知らないとということですね。今後、このユニークな商材が目に止まったのをキッカケに、調べてみたいと思います。

いずれにしても、今回のケースでは、以下のようなことが学べると思います。

・(年率10%など)目立った数値を消費者に見せる金融商品のマーケティング手法
・手数料や税金を考えた手残りという実質的な利回り
・ある金融商品を他の金融商品と幅広く比較するという思考
・商材を扱う金融機関の儲けや損失の考察


というわけで、投資リテラシーを得る上では良い教材と思いますので、取り上げてみました。また、勉強になりそうな商材があれば取り上げてみます。

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