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夢を見た

大学時代に親しくしていた人が夢に出てきた。
4つ年上のその人は、初対面のときから兄貴風を吹かせて、さもずっとそうしていたかのように、ごく自然に食事に誘ってきた。といっても、学生だから、ちょっと昼飯行こうぜ!ぐらいのノリだけど。
右も左もわからぬ新入生の私と違って、その人は、もう卒業を待つだけ(一単位落として留年中)の身だから、アルバイトもたくさんしていて、彼と出かける時はいつもご馳走になった。
他の人には言えないような彼の異性関係も、ひよっこの後輩という気安さもあってか、私には全て話してくれた。
それがまあ作り話のような、漫画のような面白さで、とりたててイケメンというわけでもないのに、こういう口の上手い人に、ほろっとなる女性はいるのだなと思ったり。
なんというのか、惚れさせるというよりは、しょうがないわねぇ、付き合ってあげるわよ・・と思わせるのが上手な人なのだ。
そうやって、あちらにもこちらにもお気に入りの人がいて、彼女たちの誕生日はともかく、クリスマスなど一つの行事の日には、あっちへ走り、こっちへ走り、夜中まで「恋人がサンタクロース」をやっていた。
呆れるぐらいマメに。
40歳ぐらいのおじさんのイメージなんだけど、当時、彼はまだ二十代だったんだよな。22歳23歳ぐらい?信じられない。
その年で、あんなふうになる人がいるんだ。

その彼が、珍しく夢に出てきた。
少し前に久しぶりの再会を果たしたという前提で、私が彼に電話を入れる。
応じた彼は、
「akariko、電話してくるのはもう・・」
と困惑気味。
「わかってる。ただ一言伝えたくて。あの頃、つらい時、つまらない時、いつもあなたがいて助けてくれた。それがどんなに心強かったか。そのお礼を言ったことがなかったので言いたかったの。ありがとうございました。本当にお世話になりました。では、失礼します。」
そう言って、私が電話を切るところで目が覚めた。

目が覚めた瞬間、ぼんやりと、そうだ、感謝の気持ちはきちんと伝えなきゃ。
伝えられるときに伝えなきゃ・・
連絡してみようかな・・

そう思った刹那、現実に返る。
何を言ってるの?
彼はもういないのだった。
7年?8年?
それぐらい前に亡くなった。

最後に電話をもらったとき(実生活では、私から連絡をしたことはなく、いつも彼の方からコンタクトしてきた)肝臓が悪くて顔色がすぐ黄色くなると言っていたから、体の具合がよくないのだろうとは思っていた。
その時の電話で、彼は、奥様が私の年賀状に嫉妬するから困ると言っていた。
え?なんで?こっちは夫と娘たちと、四人で写っている家族写真入りの当たり障りのないものなのに?

けれど、そんなケースは初めてではなかった。
年賀状のやりとりだけ続いていた元カレの母親から電話が来て、
「嫁がヤキモチを焼いて夫婦喧嘩が大変なので、年賀状を出さないで欲しい」
と言われたことがある。

え、なんで?
「これ誰?」と言われて、平静に答えられない彼らが悪いのだと思うけれど、まあ、私としては年賀状は形式的なものでしかなかったから、それ以来、送るのはやめた。
彼らの家族の視界に入らなければいいのだから。

翌日、「ごめーん、おふくろから電話あった?」と、その元カレから早速連絡が来たのには笑った。
いくら年賀状封じてもこれだから、ムダなヤキモチは焼かない方がいい。
何かあるならともかく、何もないのだから!微塵も!

それはさておき、件の彼。
私は彼の結婚、離婚、そして再婚に至る経緯、それに結婚してからの異性関係も全て知っていたから、私がきっかけで、彼の奥様に知られたくないあれやこれやがバレるかも?!という危機感が彼にはあるように、その最後の電話で感じた。
「あの人とはどうなった?」と聞いた時に、明らかに(う、やばい)とでも言いたげに声のトーンが変わったから。
そんなことまで話してたか・・というような。

その後、私は転居して、彼に連絡先を伝えなかったから、それ以降、彼が私に連絡を試みたかどうかはわからない。
音信が途絶えている間に、彼はいなくなってしまった。

会おうと思えば会えるのと、
もう絶対に会えないのとでは、
同じ時間だけ会わずにいても、意味が全く違ってくる。

二十歳過ぎると、たった十年、二十年で、人生は大きく変わる。
十年、二十年は「たったの」ではない?
でも、六十年生きてみると、二十年前のことなんて、ついこの間のことのように感じる。
違うのに。
大違いなのに。

恋愛ではない。
恋ではない。
友情でもない。
信頼。安心。安らぎ。
男女の間に生じるそれを、何と呼べばいいのだろう?

「目が覚めたらね、akarikoの声が聞きたいなって、真っ先に思ったんだよね」
なんて、寝ぼけた声で電話してきた人。
あの懐かしい声が、夢の中でまた聞けた。
記憶は案外へこたれないのだな。
もう二度と会えなくても。

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