記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

映画「総理の夫」凛子の決断について

映画「総理の夫」を観た。
約一年前に原作を読んでいて、映画を観ながら「あれ」と思った。
こんな結末だったっけ?

以下、映画と原作のネタバレを気にせずに、主に終盤の展開について思ったことを書いていくのでご容赦を。


原作では直接の言及はないものの、恐らく凛子は辞任していない。ラストは、国会で答弁する凛子の様子をテレビで見つめつつ赤ちゃんの世話する日和が日記帳を閉じて終わる。

一方映画では、そもそも妊娠出産自体は凛子の中では辞任するか否かの焦点ではなくなっていた。
劇中で凛子が言うように「世界のリーダーでは任期中に出産する人もいる」今の時代も反映してだろう。原作が出版されたのは2013年だ。


それでも映画の凛子が辞任を決断したのは、切迫流産になったから。しかも43歳での初産だ。近頃は40歳以上での出産は珍しくなくなってきたとは言っても、やはりリスクは高い。現実にも当然あり得る事態だと思う。

日和よりもずっと近くで、議員として、総理大臣としての相馬凛子の仕事ぶりを見てきた富士宮が、妊娠をマスコミにリークしてまで凛子を止めたかった。


いつどんな時でも「大丈夫、凛子ならできるよ」と言ってくれた日和も、大丈夫だと言ってくれと取り乱して懇願する妻に、「大丈夫」とは言えなかった。凛子ならできるかもしれない。いや、してしまうかもしれないと思っているからこそ、言えなかったのかもしれない。


映画総理の夫での凛子の総理辞任という決断は、妊娠出産という女性特有の問題だけではなく、病気や怪我などあらゆることが原因で仕事から離れざるを得ない全ての人たちへのメッセージなのかもしれないと思う。

日和の言う「いつも大丈夫じゃなくていい」「羽根を休めてもまた飛び立てる」

という言葉は、女性だけではなく全ての人に当てはまる言葉だ。

だからこの映画「総理の夫」では、原作とは敢えて違う決断を下す凛子を描いたのかもしれない。
原作の凛子のように周囲に支えられて総理を続けながら出産、育児する凛子も、危機に晒された母体と胎児の命のために仲間に希望を託し、一度羽根を休めることを選ぶ凛子も、どちらも強く美しく愛おしい。

ちなみに、辞任したのは総理大臣であって議員ではないだろう。出産育児、病気や怪我で休む場合も会社を辞めるわけではないのと同じ(もちろん元のポストのまま復帰できるのが一番いいが…それか難しいところが大きな問題のひとつだとは思う)

そしてラストの「もしも私がもう一度〜」という、冒頭とラストシーンをリンクさせる映画的な爽快感は堪らないものがある。

もしかすると監督はあれがやりたかったのかも知れない。だって私なら絶対やりたい。
そんな邪推を浮かべてしまうほどスカッとするラストカットだった。

原作との相違に賛否はあるかもしれないが、敢えて総理大臣を一旦辞任することで、一人で背負わなくていい。休んでもいい。という全ての人へのメッセージを強調したのではないかと受け取った。

会見場に乗り込んで大演説をした日和だが
凛子へ辞任を勧めるわけでも、留任を促すわけでもなかった。
「きみの決断を全面的に支持する」

100%の応援。あなたの人生を丸ごと応援したいという日和の姿勢が素敵だった。

相馬の母も、はっきりとは辞任も留任も勧めなかった。夫がいて妻がいて子供を授かる。ただそれだけのことに大騒ぎする世間への皮肉は忘れないが、あくまでも決断するのは凛子だった。

原作には映画でも描かれていない素敵で楽しいエピソードがもっと沢山あるので、また読み返したいし、未読の方はぜひ原作も読んでほしいと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?