職場体験での出来事

この学校では毎年11月に職場体験がある。
ほとんどの学校で実施されていると思うが、生徒を小グループに分け、それぞれ行きたい事業所に割り振る。

希望が全て通るわけではないが、原則第一希望を通すようにしている。

前回の記事で、花火を職員室めがけて飛ばした話を紹介したが、その張本人Aくんと、いつもそのAくんと仲良くしていたBくん。その2人はガソリンスタンドにお世話になることに。

職場体験当日までに生徒から手紙を送ったり、事前訪問をさせてもらったりするのだか、その2人はできなかった。
(エスケープや欠席が多かったため。出席したときに手紙や事前訪問の話をしても、「うるせぇ」「めんどくせぇ」の一点張り)

もちろんガソリンスタンドの方には、事前に事情を説明しておいた。来ない可能性もあるし、来たら来たで真面目に指示を聞いて仕事できるかどうかも怪しい。服装もどうなるか。あらゆることを想定し、伝えておいた。
(それでも受け入れていただいたのだから、この時点で感謝である)

1日目。私が見回ることになっていた。集合時間は現地に10時。10時を回っても現れなかった。

店長さんに謝りながら、今日は来ないかもしれないと思っていた20分後、制服のボタン全開、シャツ出し、腰パン、ウォレットチェーンジャラジャラ、茶髪、ピアスで2人が現れた。

ガソリンスタンドなのでジャージで来るか、ジャージ持参ということになっていたが、もちろんジャージなど持ってきていない。

来た時点で引き止め、ガソリンスタンド裏で話をした。

さすがにその状態で職場体験はまずい。せめてボタン閉めてピアス外そう。お店の人に事情は説明するから。そんな話をした記憶がある。

しつこくすると興奮して暴れることもあったので、普段の学校生活では、そういう話をしつつも別室で雑談しながら関係を作るように心がけていた。

担任してから半年ほどたっていたので、ある程度話ができる関係は作れていた。ただ、それはこちらの指導が通るという意味ではなく、彼らが興味のある話(バイクやオシャレなど)を一緒にできるような関係ができていたという意味である。ピアスを外す、茶髪を直すなどは、できることもあったが相当な労力であった。

だが、職場体験ではそんな悠長なことも言ってられない。雑談などしている場合ではなく、そもそも遅刻している。

その場での私の話は焼け石に水。そんな話だけで直せるなら学校生活でも直せるのである。徐々に興奮して、逆上しだした。

私の制止を振り払い、そのままの状態でガソリンスタンドへ入っていった。声かけすると「うるせぇ!」の一点張り。ガソリンスタンド中に声が響き渡り、お店のスタッフたちも唖然としていた。幸い、お客さんはいなかった。

そこへ店長さんが話しかけてくれた。「とりあえず中に入ろう」と。

2人は大人しくついていき、スタッフルームで店長さんと冷静に話ができる状態まで落ち着いていた。

他のスタッフの方には私から謝罪。学年主任に電話で報告し、私は他学年の授業があったので学校へ戻った。

その後、別の空いている職員が交代でガソリンスタンドに見回りに行った。管理職も謝罪に動いた。

結局その日は、ガソリンスタンドのジャージを借りて、午後は最後まで仕事を行うことができた。

店長さんの冷静な対応に感謝である。

その日の夜、本人たちと保護者を学校に呼んで学年主任と私で面談を行った。

今回あったことの詳細の説明、ガソリンスタンド側の対応、2日目に向けての話をし、保護者の前で本人達に意志確認をした。明日はしっかり頑張るということになり、その面談を終えた。

2日目。この日、私は別の事業所の見回りと授業があったため、ガソリンスタンドには行っていないが、ガソリンスタンドから、時間通りに来て一生懸命仕事しているという報告があった。

ホッとしたのも束の間。午後に残念な報告が入る。「昼休みから姿が見えなくなり、戻ってこない」と。

この段階で学年職員、空いている管理職で近所の捜索が始まった。車、自転車で探し回ったが、見つかるはずもない。

2時間ほどたって、近所のスーパーから連絡が入る。「おたくの生徒が2人、いきなりスタッフルームに侵入してきた」と。

そう、AくんとBくんである。そのスーパーも職場体験の事業所だったのだが、仲のいい友人がそのスーパーで体験を行っていたため、会いに行ったのだ。

スーパーの職場体験が終了した段階で一緒に下校したらしい。

その日の夕方、管理職と学年主任は菓子折を持ってガソリンスタンドとスーパーに謝罪に行った。

授業+事業所回り+謝罪で精神的にも身体的にもクタクタだった。

それでも仕事は終わらない。夜にまた学年会である。その生徒や保護者に対してどう話をしていくか。

全て終わる頃には21時近く。そこから翌日の準備をする。

今耐えられるかどうか…だが、そういう状況の学校はたくさん存在する。また似たような境遇の学校になったらやるしかない。

前回の記事と今回の職場体験のようなことが頻発する学校。この学校も今では全く別の学校といっていいほど落ち着きを取り戻した。

次の記事では、さんざん振りまわされた彼らの卒業と、学校がどのように変わっていったか、その具体的な変容について書いていきたいと思います。ありがとうございました。




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