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「笑いのカイブツ」感想/消え去るな情熱

こんにちは、自由律俳句はしばらくお休みしますが今回は今どうしても書きたかった読書感想文です。

前書き

 初めに、以前私が自身のInstagramに書いた感想を先に載せましたが今読み返すと、初見歓迎していない雰囲気しか漂っていません。カッコつけようとあたおかなポエムしかみえてこなかったようですね。

 何故、このタイミングで改めて感想を述べようとしましたのは、この間NHKで著者のツチヤタカユキさんのドキュメンタリー番組が放送されたのとまた落語会が開催するのとで私の心が今ここで書き起こさないと手遅れになると突き動かしたからです。尚、他の著書と番組の感想も後ほど書き連ねる予定です。
また、かなりネタバレに踏み込むため、一度お読みになってください。

○誰かの正論が邪魔なとき、今がそれ

 感想を浮かべようとしてもきちんとした言葉にならなかったのは前書きの通りだが、浮かんだ感情を何度も再読して纏めようとしても残ったのは更に膨れ上がった混沌でした。そこで私は現代社会に迎合するようなハッピーエンドや成功者の結末を求めていた自分が情けないと強く痛感したのです

 元々この作品はツチヤタカユキ本人がある日突然立ち上げた個人サイトが起点で私はそこから知った人間でした。彼の名は彼の主戦場だった深夜ラジオ、ではなくそれのMCであった方のコラムから知り、彼がいつしか成功者になることを影ながら願っていましたけども、そのサイトで大きな絶望を間近にして苦しくなってしまいます。やがて、Web雑誌サイト「cakes」で連載されのちに書籍化という経緯です。
ちなみに、その個人サイトは『笑いのカイブツ』連載開始によって閉鎖されています。

 自分の論理的な感想が書けないと嘆いている中で、彼を邪魔するものが目に見えていました。「コミュ障なだけ」、「時系列がバラバラで読みにくい」、「作中に何度も挙がるあの人ことオードリー若林さんの名前をなぜ伏せたのか」、「表舞台をなぜ選択しなかったのか」など他者の巨大な正論ですね。それに対して私は打ちひしがれていき、自分の感想がゴミだと思うようになってしまいました。

 私はそんな声を軽々と掲げられるような人間ではなくどちらかというと、彼寄りの人間ですが、彼よりも家庭環境は良くて学歴も良いので少しは後ろめたい気もあります。大学で夢を叶える準備をしていたが作中に挙げられる「人間関係不得意」が私にも顕在して卒業は出来たが一般社会で生きていける人間になれなかった為、この作品に深くシンパシーを覚えたのです。
邪魔をする言葉を平気で述べられる人間は現代で膨張する「自己責任論」に気付かず飲まれていると思われています。そして、ツチヤタカユキさんのように強く生きづらいと感じた事のない人間が大半でしょう。この著書を支持している大半も私のように生きづらいと感じた人間が大半と推測していますが、それが分断される大衆を想起して辛くなりました。

 また、「時系列~」のところは私も同意しましたが美しいけども正しくない熱情があっという間に蒸発させ、正しくて綺麗な熱情のみ残る世の中で良いのかと考えてしまいます。両者のどちらか選ぶしかない世界は良いのでしょうか。私は前者も良いですがある若手芸人のような後者も良いと受け入れているので時折面倒と考えてしますが、時系列を気にするならば私のInstagramにも載せてある漫画版をおすすめします。

 「表舞台~」は読破すれば分かりますが、「競技化」されるお笑いへの反抗だが作中では自分で自分だけの競技に飲まれていると本人が痛感していました。私もお笑い好きで、ある芸人のファンだが彼らが何年経っても優勝に届かない姿を見ているとまるで呪いを掛けられていると錯覚していましたけれども、彼らは自らの手で卒業していきました。このように、ツチヤさんと視点は異なるが作中の本人も呪いを掛けられている姿は重ねていましたが、この感情はツチヤさんの母親にも似た感情なのだろうと避けられないようですね。
この章の最後に「作中~」は若林氏への期待に応えられなかった自分がいたからと推測しています。若林氏の著書『社会人大学人見知り学部 卒業見込』にも若林さんが作中にツチヤタカユキさんが離れてしまったことを後悔している節があります。しかし、『笑いのカイブツ』にははっきりした答えは書かれていないのであくまでも私の勝手な推論ですね。けれども、ここでツチヤさんと若林さんの交流が止まったと思われてもおかしくありませんが、実はまだ交流していた形跡があると私は知っています。現在確認できる証拠は後書きに記載しますね。

 元々私は生まれつき誰かを傷つけないために言葉を濁したり、また誰かに媚びるために忖度したりすることが苦手で正論ばかり出てしまいます。ツチヤさんも似たような雰囲気であります。今回述べている正論は私や彼とは違い余裕があって正論以外の言葉も出せるのに「自己責任論」から発展した正義論に酔ってしまう人が出してしまうものでしょうね。
でも、そういう方は昔からいるかもしれない、しかし現代には正論を容易に見ず知らずの他人へぶちまける手段が現れたのも大きいと考えています。正論だけでは世界は救えない、生まれつきの問題の私も肝に銘じなければならないのは当然ですが。

●彼がいてもいい世界を願う

 では、本題である私の感想に入ります。
前述の邪魔する正論を排した私の結果は「情熱と自分の中の呪い」です

 「表舞台~」の続きで、表舞台の芸人も自分の中に呪いを掛けて栄誉を勝ち取るとそれで呪いが解けるが、呪いが解けてめでたしめでたしにならないですよね。その後にもお笑いから外れた他の分野でも良い結果を残さないと早々と朽ちてしまうのが今のお笑いの世界にある一面です。
一方、ツチヤさんは純粋に自分のだけのお笑いを生み出したいからか裏方の世界に挑もうとしていました。表舞台よりも裏方の方が他の分野のことは気にしなくてもいいが、その分自分でやらなくてはいけないことが多い現実がありました。他の分野から逃れないが他者に頼ってもいい表舞台、その仕事だけで受け持ってもいいが自分でなんとかしなければならない裏方、どちらが「自由」なのでしょうか。けれども、彼の中の「情熱と呪い」は今のお笑いの世界にはどちらにしたって遺棄されてしまいます。

 その理由の一つとして「同じ世界での繋がり」、それが今昔問わず存在するからでしょう。社会の高度化や高速化が「繋がり」の壁を低くしていますが許されるのはその世界に適した人間だけでした。
ツチヤさんはその中に溶け込めずそれらの敗者になってしまいました。彼の中にいる「情熱と呪い」は彼のお笑いに対する愛だけでなく、幼少期の疎外感からも生み出したとも思えます。良き「繋がり」を学べられなかったり捨てられたりした者は大人になって救われると思うが現実はそう上手くいかず、最悪罪を犯す者もあり得ません。私の好きだった芸人がそのような末路を辿ってしまった時は本当に悲しかったです。罪は犯していませんが、彼は「繋がり」至上主義の世界からはじかれました。

 「繋がり」至上主義がやがて破滅の前で立ちすくみ諦めるのを待つしかない未来もあり得るものの、享受する人間はそれに気づかず溶け込めず消えゆく人間を「コミュ障」と軽蔑する世界は壊れてもいいと私も思わないと言えば嘘になります。どういう人間も生き残れる世界があってもいいんですが、1つのことに縛るしかないのかと思うと悲しくなっていきます。

 「情熱と呪い」が作中で「カイブツ」と称されています。「カイブツ」を浄化したのは「愛」、彼の母親や元カノさんからの強くて慈しみのある「愛」でした。「愛」やら「絆」やら基本薄っぺらく使われている概念だが、彼は幼少から深く満たされなかったから「カイブツ」が誕生します。大人になってからそれらの救済は難しい、これからツチヤさんが一般人並みのそれらを満たすには1人では大変なことになります。

 他に「魂からの友」がいるべきだと思います、薄ぺっらい友情でない厚い関係です。1人で上手くいかなかった彼には彼の話を聞いてあげられる友人がいるべきですが、作中の「ピンク」さんはそれに届くことはありませんでした。まだ、ツチヤさんが「情熱と呪い」の真っ只中にいる時の話でもありましたが、「情熱と呪い」に負けていたとも捉えられます。
若林さんはそれを受け入れられましたが、「世界」の溝を埋められませんでした。無理矢理「人間」にすると特出した個性も剥がれてしまい、流されていくだけの人間になるのもありますのでツチヤさんはそうであってほしくないと私は願っていますが、落語作家になろうとする今もう二度と同じ轍を踏むようなことはあってはならないとも考えています。それを思う私は良い人なのかと悩むしかないですね。

 『笑いのカイブツ』を検索していると彼に憧れるが友人として接するのは拒む者が見つかります。私はそれを越えたいですがまだまだ自分は足りない人間と思います。資格の勉強を何年も繰り返して結果を出せていない自分では彼を支えられないと考えています。でも、私が一発合格出来る人間ならば、ツチヤさんを見捨てていたとも選択肢が浮き上がるんですよね。

後書き

 現在、ツチヤタカユキさんは落語作家の道を歩みながら、ある専門学校に通ってプログラミングの勉強しています。また、彼はInstagramだけSNSを活用しています。ツチヤ氏と若林氏の交流の形跡や専門学生である証拠もそこに残っているが、非公開なので承認が必要でそれだけに気をつけてください。

 最後に、私が以前ツチヤタカユキ本人から頂いたサインを載せて置きます、あるライブでの話でした。

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※追記
自分がTwitterに書いた感想がサルベージ出来ました。こちらに載せておきます。


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