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いっそ、バカだと吐き捨てて

彼氏に水ぶっかけられて、

それでも笑った自分にまた


涙が溢れてきた。


携帯を取り出して

由香の番号を探す。


「あ、莉乃ー。

どーした??」


あっけらかんとした
その声を耳にしたら

涙は止まらなくなった。


「ふぇ、ゆかー…。」

「え?まさか泣いてる??」


「水ぶっかけられたぁー。」


しばらく沈黙が流れてから

ため息が聞こえる。


「だから言ったじゃん。

あの男は辞めとけって。

…ってか、莉乃さ。
高校行ってから更に
ダメ彼氏率上がってない??

私が止めなくなったからって
調子乗ってんでしょー??」


涙を拭きながら

はぁ、と息をついた。


「だって高校入ったら
中学ん時よりもっと簡単に
コクられる様になったんだもん。」

「安い女だと思われてんだよ。

まぁ、実際安いけどね。

付き合っちゃってんだから。」


まさか親友にまで

安いと思われていたとは。


「…みんな、本気だもん。」

「みんな本気ってことは
みんな適当ってことだよ。」


みんな一緒なんて

そんなのはおかしい、と

由香は言う。


「莉乃の本気は

疾風でしょーが。」


その名前を聞いてまた

胸が切なくなった。


「…疾風は、だって、そーゆんじゃ、」


恋だって気付いた時には
もう友達で。


ここから恋愛になんて

どーやったって

持って行けない。


「…モテるし。」


疾風以上を探すから

変な男に

引っ掛かってしまう。


「莉乃は良いじゃん。

まだ、全然引き返せる。」


引き返せないよ。

疾風だって私みたいな
安い女、嫌だよ。


疾風にはもっと

純粋な子じゃないと。


「疾風の話は良いじゃん。」


「でもあんたどうせこの後、

疾風に電話するじゃん。」


ギクッとした自分が

情けなかった。


「ほら、否定しない。」

「…しないよ。」


「あんたがしなくても疾風がするよ。

どーせ、あんたが彼氏に会うこと
疾風は知ってんでしょ??

フラれるのも
察してるんでしょ??


疾風は莉乃に電話する。

だから、私は切る。

じゃーね。」


私はズルい。

由香を引き止めなかった。


下手したら先に電話を切った。


「…もしもし??」


入れ替わる様に鳴った電話に
ワンコールで出た私は

本当に、最低だ。


「莉乃??
彼氏、なんだって??」


「…はやてぇー…、」


バカでズルくて安い私は


「フラれちゃったよぉー…。」


貴方を忘れる為にした恋を

貴方に慰めてもらいます。



いっそ、
バカだと吐き捨てて







**


「フラれちゃったよぉー」


君の泣き声を聞いて

心配な俺が八割と

呆れた俺が一割、


「…そっか。」


ホッとしてしまう俺が一割いて


そんな俺をいつになったら

俺は辞められるんだろう。






2011.02.15

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