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泣き顔なんて卑怯じゃないか

屋上で空を眺めていたら
なにやらガチャガチャと
扉の開く音がした。


なにごとか、と慌ててそちらを見ると

そこには一つ下の後輩の
結衣が立っていた。


結衣とは部活が同じで
でも、別に仲良くはなくて

ただ、その整った外見は
俺達の学年からも評判が良かった。


「…よぉ。」


最初に出た言葉は

それだった。


どう見ても彼女は
切羽詰まっていたし、

チャームポイントみたいな
黒くて長い髪は乱れ、


大きな瞳は

少なからず、濡れていた。


しかし彼女は何も言わず
俺なんて見えていないかのように

スタスタと俺の隣に並んでは
ひょい、と塀を乗り越える。


「は?!ちょ、バカ、ゆい!!
お前、なにやって、」


しかし、そこに座り込んだゆいを見て
あぁ、落ちる訳じゃないのか、と

少し、ホッとした。


「…先輩。」


小さくて、女にしては低い声で

塀の向こうからポツリと呟く。



「夕日が目に染みますね」



そう言った彼女の頬には

一筋の跡が出来ていた。


「…あぁ、なぁー。」

「もう、まぶしすぎて、
目が痛いっていうか、

乾いちゃうっていうか、

夕日のバカヤロウ。」


変な子なのは別に
今日始まったことじゃない。


「…なんで塀越えてんの??」

「この方が夕日に近いから。」

「…そう。」


意味はよく分からなかったが

適当に頷いておいた。


そうしないとなんか、
間が持たない気がした。


まぁ、どっちにしろ
持たないんだけど。


「…聞かないんですか。」

「なにを??」

「なんで泣いてるか

聞かないんですか。」


声は震えていた。


涙はどんどん、あふれていた。


「別に、聞かないよ。」


聞いたところで
上手く慰める自信はなかった。

だけど言って楽になるなら
言ってほしいと思った。


「…先輩、」

「なに。」


「夕日なんてないだろって
早く、笑って。」


それだけ言うと彼女の涙は
ポタポタと流れて

俺の方を見るから

今度こそ何も言えなくなる。


「あー…。…ゆい。」

「…、」


「…こっち、おいで。」


両手を広げた俺を
いぶかしげに眺めたが

だけど彼女は小さく頷き

塀を軽々と越えて


俺の腕におさまった。



言っておくが俺は
誰にでもはこんなことしない。


だけどその、ゆいを見たら

そうせずにはいられなかった。


「…せんぱいー、」

「…おう。」


「別に好きじゃないから

こんなのされても

なんもないよー。」


そう泣きながら言う結衣の頭を軽く叩いて

そのまま、抱きしめた。



結衣は思ったより、

小さかった。



泣き顔なんて
卑怯じゃないか







**


それでも結衣はそういって

俺の背中に腕を回して


罪な女だなー、って

ちょっと、思った。






2012.02.26
hakuseiさま
泣き顔なんて卑怯じゃないか

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