見出し画像

幸せな、人魚姫

(赤髪の人魚姫に、感謝と愛を込めて。)


登場人物

・飯塚智美(作中18歳)
黒髪の綺麗な美少女。複雑な家庭環境に育ち、中学から高校二年の途中までは家出少女だった。ツンとしているが、心を開いた人には愛情深く接する。過去の影響で世の中のことをあまり知らない。廉次のことは大好き。

・安川廉次(作中18歳)
高身長、筋肉質、爽やかでモテる。お節介を絵に描いたような男。姉と妹がいる。男の人の家に警戒心なく宿泊する智美が心配で、関わるようになる。

この二人の話は別サイトにて、掲載してます。


俺の部屋に置いてあった
夢衣の絵本を見つけた智美は
俺の腕を背もたれにして真剣に読み始めた。

俺は特に気にかけずに塾の宿題を進める。

…いや、正確には気にはなる。

気にはなるけど、
穏やかに宿題を進める。

しばらくすると智美は
俺が宿題を終えたのを見計らって
俺の脚を枕にするみたいに寝転んだ。


「…ねえ、廉次。
不思議なことが起こった。」

「なに?」


「この人魚は人間になって
王子様と幸せになった。」


智美は
有名な芸能人や歌、映画、物語を
知らなかったりすることが多い。

今回も多分、そのパターン。


「幸せになる人魚姫もいるんだよ。」


その有名な映画について
話すことはすごく簡単だけど、
ちょっと面倒くさかったので

俺は適当にそう答えた。


しかし智美はその言葉に
えらく感動している。


「廉次、いま、
すごく良いこと言った。」

「…は?」


智美は俺と向き合うように起き上がり
俺の首に腕を回した。


穏やかだった俺の鼓動が
ちょっとだけ穏やかじゃなくなる。


「幸せになる人魚姫もいるって、

素敵すぎる名言だよ。」


なににそんなに感動したのか
俺にはさっぱり分からない。

更に言えば恥ずかしい。


俺の適当な発言を
名言とか言わないでほしい。


そんな大それた言葉じゃない。


「いや…、智美?
俺は別にそんなつもりじゃ、」

「でも、廉次。

じゃあ、泡になった人魚姫は
不幸だったの?」


智美の声が耳に響く。

その声はどこか切なくて
俺は静かに息をして智美を抱きしめた。


「…誰かを殺して生きるよりは
幸せだったのかもしれない。」


智美の腕の力が少し強くなって
じゃあ、と泣きそうな声で言う。


「どっちも、幸せ?」


智美の髪を撫でて
俺は小さく頷いた。

本当は分からなかったけど
でも、智美は満足そうに笑った。


「なら、良かった。」


人魚姫が幸せなら
なにが良かったのか、

俺にはよく分からないけど。


智美が、それが良いなら

それで良いと思う。



幸せな、人魚姫







**


ようは捉え方の問題なんだろう。


廉次と一緒なら
どんなことも幸せに思える。

きっと、泡になっても
人間になっても

廉次がいれば幸せ。






2012.03.18
hakseiさま

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?