見出し画像

石鹸の香りのする彼女

最初その話を聞いた時、
抜け駆けじゃん、って思った。


「…ちょっと待って、意味が分からない。」

「いや、だからー。
大澤、D組の本宮と付き合ってんだって。」

「本宮さんと??なんで??」

「知らないよ。」


だって、本宮さんはさ。

私が渡しといてって頼んだ手紙、
代わりに渡しといてくれたり

大澤くんが甘いの嫌いって
教えてくれたりしてたじゃん。


なのになんで

あんたが付き合ってんの??


って、最初は思った。

普通にムカついたよ。
私のが好きだよ、絶対。


…正直、本宮さんのことは
言い方悪いけど、
パシリみたいに思ってた部分はある。


頼んだこと全部、
笑顔でハイハイ言うし。

スズとか明日香と一緒にいるけど
笑ってるだけだし。

確かにデキる女感はあるし
料理上手いのは認めるけど

地味だし、モテる訳でもないじゃん。


私のが大澤くんに相応しいって

心のどこかで思ってた。


なんで本宮さんなの。

意味分かんないよ。


そんなこと考えながら
ボーッと歩いていたら


たまたま、2Dの前で。


教室覗くのが癖になってるのは

多分、いつも大澤くんのこと

見てたからだと思う。


ほら、私、

こんなに大澤くんのこと好きなんだよ。


心の中でそう呟いた。


そうしたら、なぜか本宮さんが

一人で2Dにいた。


いまお前のこと見たくねーし。

心の中で悪態ついて帰ろうとした。


けど、ちょっと、気になって。

なにしてんのかなって。


そしたら本宮さん、

黒板、超綺麗に消してた。


…バカみたい。
そんなことしたって
別に誰も見てないよ。
なに、いい子ぶってんの。


そう思いながらも、なんか、

悔しくなる自分がいた。


消し終わったら、
ぐっちゃぐちゃな机を
綺麗にならべだす。

椅子も綺麗に整える。

曲がってる掲示物を直す。


私にも、それくらいデキるし。


…でも、

私だったら、やらない。


だって誰も見てないし。

多分、誰も気づかないよ。


明日の朝、黒板が汚くても
どうせ先生が汚すじゃん。

机なんてすぐ乱れるって。
みんな、動かしまくるし。

掲示物なんて、知りもしないよ。


なぜか自分に言い聞かせてる私。


そしたら廊下の向こうから音がして。

なんとなく隠れたら


来たのは大澤くんで。


「なにしてたの??」


教室掃除してたって言うんだろうな。
良かったね、本宮さん。
いい子アピールできるよ。

少なくとも、私ならそうするよ。


だけど本宮さんは
大澤くんに笑って言う。


「明日香のこと待ってるの。
補習終わるまで時間かかるみたい。」


本宮さんのその言葉に

大澤くんはしばらく黙って笑う。


「…そっか。
そういえば秀ちゃんも補習だ。」


そして、残った机を

さりげなく整えた。



なんか、それ見たら

バカみたいって。



あんなことしなきゃ
彼女になれないんなら

他の男探す方が早いやって


多分、だから私は

無理だったんだと思う。



石鹸の香りのする彼女







**



「本宮がいけるなら
告白しとけば良かったかもね。」

「はは、確かに。
つーか大澤、意外と女なら誰でも良かったのかな。」

「遊んでんじゃないの??」

「うわ、本宮さんで遊ぶとか、逆にひどい。」


「遊びじゃないよ。」


私の言葉に友達は
ちょっと驚いている。


「…本宮さん、超いい女だし。」

「いやいや。
少なくとも大澤には似合わない。」


「だって本宮さんって

石鹸の香りするし。」


友達には笑われた。
私も笑ってごまかした。


ナデシコ決定戦で
本宮さんに入れたのは

悔しいから

誰にも言ってない。






2012.01.04
hakuseiサマ
石鹸 

この記事が参加している募集

忘れられない恋物語

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?