兄が着ていたピンクのワンピース
中学生の時、家に帰ると、四つ上の兄がピンクのワンピースを着ていた。
ショッキングピンクにチェックの柄物で、白い襟のついた膝まであるシロモノだった。それを見た母親は激怒と困惑で金切り声をあげた。
兄は、これは女物ではないこと、ファッションの一環であること、わからないやつにはわからないセンスだということを述べて弁解したが、母親には通じなかった。
もちろん私も意味がわからなかった。兄は重度のファッションオタクであった。
兄が夜間高校に通っていたころ、兄の彼女はピエロの靴を履いていた。
それは、真っ赤に染められた革でできていた。つま先がぐっと反り上がっていて、親指の部分だけが長く突出している奇抜なデザインであり、家に帰って玄関にその靴があると、彼女が来ているのだとわかった。
私と母は彼女を「ピエロの靴の人」と呼んでいた。名前も顔もしらないまま、そのうち家に来なくなった。
上京して社会人になった兄は、通勤にローラースケートを使用すると言い出した。
職業アパレル店員のためスーツではないものの、毎朝、駅や通りの通勤ラッシュをローラースケートをはいた姿で滑走するという。東京の人は使ってる、が兄の弁解であった。
兄が今もこのような危険行為を続けているかはしらない。
ただ、東京の人は使っていないと思う。
(了)
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