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設計図

この作品は、ある小説を書こうとして最後まで書いたもののボツになった作品です。
noteの『熟成下書き』の企画に乗らせていただいて、折角なので公開しようと思います!

今読むと、よく書けている。。(←自画自賛)
それではどうぞ!!↓↓↓
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腕時計が動かなくなった。
爺さんから貰った古くてごつごつした腕時計。
時計屋に持っていくと店員は言った。
「中のオートマタが壊れてますね」


時計はみんな、内蔵されたオートマタによって動いている。
オートマタは機械仕掛けの人形で、時計の中にいるその小さな人形は、設定した通りに動くのだ。
一寸の狂いもなく、永遠に時を刻み続ける。
「どうします?取り替えますか?」
僕はそのまま持って帰ることにした。
爺さんの形見だもの。
これはこのまま取っておこう。



カチカチカチカチ。
その夜、耳音の小さな音に僕は目を覚ました。
うっかり腕時計をしたままウトウトと眠ってしまっていたのだ。

音は僕の左腕から聴こえている。

僕はそうっと時計の蓋を開けてみた。

「あっ」
バツが悪そうな顔で、茶色の髪をした細い身体のオートマタがこちらを見る。
「なんだよ。お前眠ったんじゃないのか」
言いながらも、カチカチと時計の中身をいじくり回す手は止めない。
「君こそ、壊れたんじゃなかったの?」
僕はその小さな生き物を見下ろした。
「いや、100年以上もおんなじ事を繰り返してたら飽きちゃって。旅にでも出ようと思ってるんだよ」
僕はなるほどと頷いた。

「お前の爺ちゃんもお前も、真面目だし時計を大事にしてくれた。だからせめて出て行く前に、時計を全自動にしていこうと思って」
もう少しなんだよなぁ、と言いながらオートマタは手を動かし続ける。
その手は黒い汚れが所々に染み付いていた。

「いいよ。今までずっと働いてくれてたんだもの。すぐにでも出てお行き」
僕が言うと、オートマタは驚いて手を止めた。
「それじゃお前が困るだろ」
「大丈夫、自分でなんとかするよ」
オートマタは少し迷っていたが、じゃあ、というと自分の髪を一歩抜いて僕の手のひらにおいた。
「からくりの設計図をやるよ。時計に限らず色んなものに応用出来る。お前次第だ」
髪は僕の手の中でふわっと溶けた。

「よし、これで自由だ。それじゃあ」
オートマタは満面の笑みを浮かべて、そのまま振り返りもせず去っていった。



翌朝、目が覚めると妻が言った。
「腕時計、直ったのね」
僕はうーん、と伸びをする。
「僕が直したんだ」
妻はぽかんとしていた。

机の上に置かれた腕時計が、カチカチと新しい時を刻んでいる。



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