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 とっちゃんは猫が好きだ。3歳のころから、猫を追い回して遊んだ。
 とっちゃんの子どものころは野生動物がもっと強くて脅威だった。猫は、ネズミやキツネが悪さをしないように、ガードマンとして飼っているのだから、今の家猫とは待遇が違う。給餌はするが、家の中には原則入れない。

 とっちゃんは3歳でよくわからない。ただ、猫が可愛くてかわいくてたまらない。そんな半ば野生の猫をひっ捕まえて鼻をべろべろと舐める。猫は暴れて顔をひっかく。爪は思うより深く傷は痛い。
 1匹だけ舐めさせてくれる猫がいた。可愛くてかわいくてその子が見えたら飛んでいく。もちろん、おいしいおやつもポケットに用意して。おやつといっても、市販のカリカリなんか、どっこも売ってない。売ってたとしても買えるはずもない。おやつの残りや野原の獲物。
 ポケットがいつも汚くなっちゃうのは。
 しょうがない。
 猫もとっちゃんが大好きだ。触らない限りは。

 かあさんは家の中に猫が入って来て、そころじゅう泥だらけにされるのはかなわない、と思っている。だから、台所やら座敷に入った猫には怒る。入ってくるなと説得する。親分猫には箒を構える。
 猫はそんな気配を感じてかあさんに敵愾心を持っているらしい。

 そんなわけで、客用布団を干したその日、猫の親分がするりと入ってきて、おしっこをしていった。なんてこと!それもよりによってこの布団!
 せっかく干した布団はまた洗う羽目になった。
「まったく。猫ってわかるのかしら」
 まて(=仕事が丁寧なこと)なかあさんは一部をほどいて綿まで洗うことにした。一日仕事だ。
 頼まれたとっちゃんも一日かあさんに付き合う。

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