「お子様セット」な本を執筆する
ある日、X(旧Twitter)で知り合った友人と食事をしている中で話題に挙がった本の執筆で意識していること。
「僕は、お子様セットだと思っているんですよね」
いきなり突拍子も無いことを言い始めた僕に、その友人は身を乗り出して聴き入ってくれました。
なんとありがたい。
みなさんは、どんな本だったら読みたいと思いますか。
自分が本を執筆するとなったら、どんな本を書けたら納得いきますか。
僕は本の執筆において一番簡単なジャンルは、レパートリー本だと思っています。
あらゆるネタを総動員して本に閉じ込める。
その数が多ければ多いほど、ページ数は増えます。
それはまるで、バイキングのよう。
ビュッフェでもいいですよ。
いろ~んな料理が読者の前に並んでいる。
どの料理を皿に取り分けてもいい。
いくらでも選べる。
そんなレパートリー本は執筆者にとっても書きやすいのです。
量をこなせばいいだけですから。
でも、僕はただのレパートリー本を書くことはしたくないという課題意識を常にもっています。
確かに、レパートリー本はわかりやすく、ニーズも多いでしょう。
先人たちのレパートリー本について批判するつもりもありません。
しかし、そのレパートリー本には、最大の欠点があります。
それは、読者が好きだと思った料理しか食べないという点です。
本で言うと、数ページを読んだら用無しなんてことになりかねません。
僕は自分の本がそんな読み方をされるのは嫌だなと思った訳です。
なので、冒頭のセリフに戻ります。
バイキングやビュッフェではなく、僕は『お子様セット』として料理を提供する執筆者になりたいのです。
お子様セットは、客が選ぶ訳ではなく、料理人があらかじめ決めた料理をワンプレートにして提供しています。
そこにはハンバーグもあれば、スパゲッティもあり、ピラフもあるでしょう。
僕は子どものころからいつも不思議でした。
お子様セットって、和洋折衷なんですよね。
一見、統一感が無い。
でも、なぜか「お子様セット」としてピラフやチャーハンにあの小旗が立つことで、統一感が出ているじゃないですか。
これってすごいことだと思いませんか。
まさかハンバーグとスパゲッティがワンプレートに乗せられるなんて。
しかも、料理人がねらいをもって乗せている訳です。
ここがバイキングやビュッフェと違うところで、さらに細かく言うと、どれだけの量乗せるのかにも意図が込められている訳です。
そして何と言っても、デザート付きです。
このデザートがまた良い役割をしています。
そんな統一感のある「お子様セット」は、ワンプレートまとめて完食してもらうことが多いですよね。
そんな本を書きたいと僕は思うのです。
拙著『こどもの心に響く とっておきの話100』は、一見するとよくあるレパートリー本ですよね。
いい話が100話載っているだけのレパートリー本。
読者は一見すると、そこから好きな話を選び取るだけのバイキング形式かと思う訳です。
しかし、私は拙著の中でも強調しています。
「ただのいい話集にはしたくない」と。
実際に読んでいただくと、始めから終わりに書けてどうやってこうした語りを生み出してきたのかというストーリーが伝わる構成になっています。
そして、読者自身もとっておきの話づくりができるように、終章でさらに踏み込んで大切にしている考え方を伝えています。
ここがお子様セットで言うデザートな訳です。
どの料理も食べていただきたい。
どの章も読んでいただきたい。
そんな本を目指しました。
でも、食べる順番は人それぞれですよね?
ハンバーグから食べたい人もいれば、スパゲッティから食べたい人もいる。
だから拙著では、索引をつけました。
どの順番からも食べられるように。
どの順番から食べてもいいのだけど、やはり最終的には完食してほしいと願いを込めて。
いつでも立ち戻れる索引ページをつけたのです。
さらに、お子様セットにはサラダも付きます。
マヨネーズで食べたい人もいれば、ごまドレッシングで食べたい人もいますよね。
そんな選べる調味料も必要だと思うのです。
だから拙著では、索引方法も複数設けました。
学級経営のポイントから索引してもよし。
道徳科の内容項目から索引してもよし。
こうした読者の自由を保障する本にしたのです。
まさにお子様セットを目指した本だった訳です。
ここまで読んで、拙著が気になった方はぜひ、手に取って読んでみてくださいね。
これから書く本も、常にお子様セットを意識しています。
そして、誇示ではなく提案する本を目指しています。
スタンスとしては、「おれ、すごいだろ?」といった変に誇示する本ではなく、「一緒に考えてみませんか?」といった本にしたいです。
私なんて読者のみなさんと比べたら拙く未熟な点はいくらでもあります。
だからこそ、むしろ読者のみなさんはどうお考えなのか、気になります。
「一緒に○○について、本書を通して考えてみませんか?」
そんなスタンスで書くようにしています。
一緒に考えていく中で、「こんなのいかがですか?」といった提案性が垣間見える。
そんな本になったらなと思っています。
読者を思いやる本。
とでも言いましょうか。
自分が読者だったら、そんな本があったら買って読みたいなと思います。
ある意味執筆者は読者に手紙を書いている訳です。
だから温かい返事が来ると、ものすごく嬉しいのです。
また手紙、あなたに送りますね。
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