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不登校先生 (16)

救ってくれた二人目の親友は、ケンちゃん。

大学時代の同級生で、こちらは20年来の付き合いがある長い友人。

ケンちゃんは僕と同じく、学校の現場で働いている教員だったが、

僕が病んで不登校になる半年前に、

赴任校の管理職からのパワハラで、相当なストレスの末、

うつ病診断で病休→休職中の、不登校先生仲間でもあり、

不登校の先輩でもあるともいえる親友だ。

「ホームから飛び込みそうになったよ。」

そう電話で話した翌日に、車を1時間以上走らせて家まで来てくれた。

「大丈夫かい?ととろんくん」

いつもの底抜けに明るい声で、尋ねてくれた。

「大丈夫、、、、ではないね。」

「明日、とりあえず明日、ととろんくんの家にいくから、

        それまで生きとくんよ。それは大丈夫やね。」

次の日朝いちばんに、本当に来てくれた。

息子さんや奥さんのこともあるだろう週末に、

申し訳ない気持ちよりも先に、ありがたい。そう感じた。

「じゃあ、ひとまず今から校長先生に連絡を入れるよ。」

ケンちゃんはうなずくと、自分のスマホを録音にして、

用心のための保険に、会話の内容を録音する準備をしてくれた。

以前の話で紹介したように、校長先生の対応は、

本当に寄り添ってくださったもので、心配は無用なものとなった。

一緒に聞いてくれていたケンちゃんは、

「すごいね、ととろんくん。こんなに親身になって話を聞いてくれる校長先

生なんているんやね。僕が勤めていた学校の校長先生からは考えられない位

に、ととろんくんに寄り添ってくれて、まずは療養を優先してくださいと言

ってくれていたね。本当に良かったね。この校長先生が上司である状況で、

きついことの相談や病休の連絡ができて。」

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ケンちゃんは、関東地方の自治体で10年以上、

非正規から正規の教員になって学校現場に勤めて、

その後、自分の生まれ故郷の街で採用試験を受けて、

その街の教員になって三年ほどのキャリアがある。

大学時代から僕が歌を歌い彼がギターを弾いて

ゆずやらブルーハーツやら、楽しいままに歌いたいままに弾き語りして

過ごしていたので、

彼はクラスの受け持ちの子たちとも、

ギターの弾き語りで、楽しく歌いながら向き合っているような人だ。

彼が関東にいたころ勤めていた学校は、貧困が日常の地域で、

行政のセイフティネットからも漏れてしまう外国籍の子ども達が

クラスの半分を占めるような学校で。

今まで生きてきて当たり前だと感じていたことがそうではない中で、

それでも子どもに真摯に向き合って先生をしていた彼に、

故郷の街で赴任した学校の校長は、

「君のようなやり方では、子どもはしっかり成長しない。」

寄り添うことは甘やかしだとばかりに、ケンちゃんの指導法は全否定され、

そんな指導のスタイルで教師をしているということで人格すら否定され、

それでも、自分は何にも悪いことはしていないと、そんな人だったそうだ。

彼は、受け持ちの子どももいる責任感から、

それでも出勤しようとした昨年の秋のある日、

奥さんに言われたのだ。

「もうこれ以上、学校に行ったら死んじゃうよ。

    ケンちゃんに生きててほしいから、学校じゃなくて病院に行こう」

自分の人生を共に歩んでくれている奥さんからの言葉で、

彼は診察を受け、心の病を診断されて、

病休に入り、そして春先から休職に入っていた。

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そんなケンちゃんだからこそ、僕のピンチに、

しっかり用心して録音しておこう。という心配や、

一緒に話を聞いて判断してくれることも、慎重に見守ってくれていたのだ。

「この校長先生なら、きっと、ととろんくんのことを、

   ちゃんと理解して、誠実に寄り添ってくれると思う。」

自分のことのようにほっと息をついて、

ケンちゃんは、僕のひとまずのとっかかりに寄り添ってくれたのだ。

その後、片っ端から心療内科や精神科に電話をかけるときにも、

「じゃあ、僕は東側の町の方からかけていってみるね。」

と、何十件もの電話を一緒に手分けしてかけてくれた。

「僕が診察を受けているところは、たまたまだけど予約がいらなくてね。

 でも、僕の家からすぐ近くだから、ととろんくんが通院するのには

 ちょっと遠いから、この先通院することも考えて、近いところから

 さがしていこう。」

昨日の今日でどこまでこの断られるのに、耐えられるかというときに、

自分のことを自分以上にあきらめずに、でも穏やかに。

ケンちゃんは一緒になって病院を探してくれた。

そして、ゆかさんの連絡が入り、改めてそこに問い合わせをして。

月曜日に初診を受けれるというところまで見届けて。

「よかった、これでととろんくん、ひとまず第一段階は安心だね。」

ケンちゃんはほっとした、いつもの穏やかな笑顔で、言ったのだった。

↓次話


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