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不登校先生(35)

救いの手は、好きな物事から差し伸べられる。

・・・・・のかもしれない。

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「ととろん先生の好きなものは何ですか?」

子どもたちに聞かれたときに、いつも答えていることは、

「先生は、おたくのおじさんだからね。たぶん、みんなよりもアニメやゲームが大好きだし、休みの日はネットで動画をみたり、ゲームしたりだよ。」

「ほんとうにそのままおたくじゃん!」

「でしょ?」

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そんな会話を何度もしたことを思い出す。

僕はアニメやゲームが大好きだ。マンガも小説も好きだ。

そして、歌うことも好きだ。

好きな歌やアーティストはほとんど邦楽だけれど、

大学時代はケンちゃんのギターに合わせてよく歌っていた。

邦楽と同じように邦画も好きで、

今のように配信が普及するよりずっと昔、

ダビングした作品も押し入れに詰め込まれている。

好きなこと、いいなと感じるもの、いっぱいあった。

上野大樹くんのラブソングを何度も何度も聴きながら、

自分の好きなものを思い出してみる。

パソコンのスイッチを入れて、インターネットに接続して。

今は便利な時代になった。定額で、沢山の作品が見放題。

全話一気視聴もできるし、見逃しもカバーできる。

こんな新しいサービスが、この2年ですごい速さで浸透したように感じる。

自分から好きなものを、探す。

ラブソングのおかげで、自分の好きなものを探そう。

そんな気持ちが目覚め、Amazon prime videoを眺める。

6月、そっか、1クール終わるころか。

地上波放送のアニメは3か月10~12話構成でまとめられることが多い。

ドラマもそうだが、一昔前の様に、通年52話構成などは、

ほとんど見られなくなった。

その上で、放送度人気が急上昇したり、

原作もまだまだ続きが十分に担保されていたりとなると

次の2期目が放送決定し、放送決定後に、製作が再開される。

そんな動きをしているようだ。

6月の中頃はそういった意味で、4月から始まったアニメが

ほぼ全話出そろった状況で、prime videoでも視聴可能になっていた。

何か視聴したいな。そんな気持ちが出てきただけでも、

自分の心の状況としては、すごく前向きになってきた。と感じつつ、

でもまだ好きなことに積極的に!とまではいかないので、

子どものころ観た、昔のアニメなどで手が止まったりするものの、

どうしても視聴までいかない。

そんな中で画面を下に下にスクロールしていたら、

ふっと手が止まった。

【スーパーカブ】

じいちゃんが乗っていたバイク。でもサムネイルの画は女子高生?

流行や話題にはならないけど、

自分の中では生涯第一位のマンガによく似た雰囲気のサムネイルに、

カチカチッ

反射的にクリックして、視聴し始めてしまった。

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これはある一人の女の子が、スーパーカブと出会う青春物語。

主人公の小熊ちゃんは、中学卒業の頃に母親が蒸発し

独り暮らしの身になる。

母が出ていった団地で、一人、収入はおそらく支援と奨学金のようで、

生活はかつかつ、でも自分でも欲など出ずに、

独りでいい。そう思って、高校生活を過ごしている。

ある日、思い立って見に来たバイク屋さん。

一番安いバイクを探していると店主が持ってきたのが【スーパーカブ】

店主いわく「3人殺している呪いのバイク」ということで

1万円で購入できたスーパーカブ。

一台のバイクとの出会いが、小熊ちゃんの高校生活を彩っていく

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こういう時の直感は、当たるもので。

ただ、並みに当たるか、大当たりかではまた感激も違うもので、

・・・・すごくいい作品だった。

物語の始まりから、「すべてをあきらめて生きているだけ」の小熊ちゃんは

心を病んだ自分の今と重なって見えた気がした。

一方違うのは、彼女は生きることをぞんざいに扱っていないということ。

独りを受け止め、日々の生活を懸命に生きているということ。

だから彼女が物語の中で得ていく「感動」した状況に、

観ているこちらも感動する。とつとつと流れていく夕凪の物語とは違い、

彼女の青春はスーパーカブとの出会いで、キラキラと彩られていく。

それが嬉しくて眩しくて、「よかったね。小熊ちゃん。」と、身内の様に

小熊ちゃんが嬉しそうなことに感動してしまう。

気付いたら、全話観てしまっていた。

ラブソング・スーパーカブ。 歌にアニメ。

空っぽになってしまった僕はようやく、自分が好きだったものに

自分から手を伸ばすまでには、心が回復してきたようだった。

↓次話




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