【短編小説】嘘をつかなくなる薬
「茅場先生。まだ、市販はしていませんが、これが今回、国から承認された『嘘をつかなくなる』薬です」
茅場メンタルクリニックの茅場医師は、製薬企業の営業の男から新薬を受け取った。
「この薬を飲むと『嘘をつかなくなる』んだって?にわかに信じ難いな」
「はい。きちんとターゲットを選ばないといけませんが、『嘘をつかなくなる』のは間違いないです」
「そうなのか。即効性があると聞いたが…」
「はい。1錠飲めば1時間ほどで効き目があります」
「それはいいな。ところで、これ、試してみてもいいかな。何か副作用とかある?」
「副作用は、ほとんどないと思ってもらってかまいません」
「私の患者で深刻な虚言癖を有してる男性がいるんだ。家族や会社の同僚が困っているらしい」
「なるほど。それで試すというのは、その患者さんで?」
「いや、男の部下で試してみようかと思う。これからその部下に飲ませるから、1時間後にここに来てもらって大丈夫かな」
「副作用の確認の試験ですかね。承知しました」
※
「先生、薬を飲まれた方に何か変化はありませんか」
営業の男が茅場教授に確認した。
「紹介しよう。今回、薬を飲んでくれた部下の大八木くんだ。大八木くん。何かかわったところはあるかね」
「ありますね。1時間ほど経ってますから、飽きてきました」
「ん?10分ほどまえに聞いたときは変わってないといわなかったか?」
「いえ、言ってません」
「いやいや、これ試験だから一応映像も撮ってるんだよ」
「そんな映像はありません。勝手に撮られました」
「映像については、同意書に君がサインしているだろう」
「サインしてません」
「君、この薬、『嘘をつかなくなる』んじゃないのか?なんか、嘘ばかりつくようになったじゃないか」
茅場教授が営業の男を見て言った。
「ええ。これでいいんです。試験大成功ですよ」
「え?」
「心の底から自分は嘘を言っていないと思っている正真正銘の嘘つきには効果抜群です」
「どういうことだ?」
「この薬は普通の人が飲むと嘘をつくようになってしまいますが、根っからの嘘つきに飲ませると本当のことしか話さないようになります」
(終わり)
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