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【ショート・ショート】桜舞う季節の終わりに

真夏かと思うような気温になったかと思えば、一気に寒くなる。おかしな天気が続く中、今日は春らしい一日になった。湿度もなく気温もちょうど良い。心地良い風が吹き抜ける公園のベンチに座る一人の女性がいた。彼女の名前は理恵、28歳の会社員だ。

理恵は目を閉じ、春の香りを深く吸い込んだ。

ふと、理恵は、隣に誰かが座ったことに気づいた。

理恵は目を開けた。そこには懐かしい顔があった。

「隼人・・・。どうしてここに?」

突然のことに理恵はかなり驚いていた。

「この辺りが懐かしくなって、ぶらぶらと歩いていたら、懐かしい公園を見つけたんだ。そこに理恵がいたんだよ」

聞き覚えのある優しい声に、理恵の心は躍る。隼人は、かつて付き合っていた恋人だった。二人が大学生だった頃だ。

「そう。久しぶりね・・・」

「びっくりしたよ。まさか理恵がここにいるとは思わなかった」

二人が別れた理由は、お互いの仕事が忙しくなったから。決して嫌いになって別れたわけではなかった。別れてからも心の片隅にはお互いがいた。

「理恵、もう一度やり直さないか?」

隼人が言った。

「隼人・・・」

理恵の心は喜びで満たされた。しかし、理恵の表情は苦悩で歪んだ。

「隼人。ありがとう。でも、もう遅いの・・・。私、来月結婚することになっているのよ」

隼人の笑顔が消えた。理恵は涙を浮かべた。

「そうか・・・」

隼人は天を仰いだ。

隼人は黙って立ち上がった。そして、理恵を振り返ることなく歩いて行った。

理恵は隼人の後ろ姿を見つめていた。しかし、呼び止めることはなかった。

二人の何がいけなかったのだろうか。その答えは、神のみが知っていること。

桜舞う季節が終わる。二人の儚き思いも永遠に消えていった。

(終わり)

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