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『王妃さまのご衣裳係2 友愛の花は後宮に輝く』結城かおる

あらすじ

 主人公・鄭鈴玉ていりんぎょくは没落貴族の娘。2年と少し前に家門の復興のため、貴族であるにもかかわらず涼国の後宮に女官として入った。

 そんな少し向こう見ずなところがある鈴玉が衣裳係として仕えるのは王妃・林氏。彼女はこの2年のあいだに公子に恵まれ、さらにはこのたび天朝てんちょうから公子の世子冊封せいしさくほうを認められることとなった。

 喜びにわきあがる涼国・嘉靖宮かせいきゅうの面々。なにもかもが順風満帆に思われたが、天朝からの使者はなんと宦官かんがん世子冊封せいしさくほうみことのりに加えて、彼が読み上げたのは主上の義母妹・明安公主に天朝てんちょう後宮への輿入れを命じるみことのりであった――。

感想

 とにかく読んでほしい。その気持ちがものぐさなわたしに読書感想文を書かせている。noteに何を書くのかなんて決めていなかったのにである。

 まず舞台となるのは涼国。天朝てんちょうに天子をいただき、冊封さくほうを受けて朝貢ちょうこうを行う国々のひとつである。ある日天朝てんちょうから公子を後継ぎにするための許可をもらえることになったという知らせが舞い込んだところから物語は進んでゆく。

――この出だしからもわかるように、とにかく「本格派」なのである。けれど堅苦しすぎない。表紙イラストにもあらわれているように、華やかでたおやかな文体は読みやすく、没入しやすい。すごい本だと思う。

 今日の王妃はごく薄い緑色の衣の上に、芍薬を刺繍した翡翠色の大袖を重ね、裾濃となった紫色の裙を穿いている。裙の色に映えるのは、向かい合う鳳凰を象ったまろやかな乳白色の佩玉はいぎょく。髪には小手毬の白い花。これらの装いは、いつものように鈴玉と香菱が相談して決めたものだった。

王妃さまのご衣裳係2 友愛の花は後宮に輝く

 やはり主人公がご衣裳係ということもあって、登場人物の衣裳の描写がすばらしい。源氏物語、紅楼夢、金瓶梅――時代の風俗を描いた小説では登場人物の衣裳が美しく描写されるけれども、一切引けをとらない。実際に涼国に足を踏み入れて、貴人を眺めながら旅をしているような気持ちにさえなる。

 しかしどこが一番好きなんだと問われたら、やはり「人間」だと答えると思う。「キャラクター」ではなくてあえて「人間」と呼ぶけれども、彼らには血が通っていてそれぞれが美学を持っている。

「私は彼に忠告してあげているの。告げるなら告げる、秘めておくならもっと慎重に隠さないと――心を永遠に地中に埋める覚悟でね。まあ、彼だけじゃなくて後宮には、恋の恨みで流した涙と、無言に終わった想いがたくさん埋められているのよ。だからここの花もそれを養分にして綺麗に咲くの。諦めの花だとか、復讐の花だとか、涙でできている花もね」

王妃さまのご衣裳係2 友愛の花は後宮に輝く


 2巻では主上の過去が少しだけ明かされる。即位前の主上には3人の友人がいて、後宮の片隅で彼らと未来を語りあったり、彼らに学問を教えたりしていた。上記の台詞はその友人のひとり、貢ぎ物として嘉靖宮かせいきゅうに入った「薬神宦官かんがん」、魏蘭山ぎらんざんのものである。

「公主の輿入れのための衣裳づくり」という「お仕事もの」要素のクオリティも高い本書だが、一方で人間同士のつながりもまた緻密に描かれているのが特徴である。それぞれの人間にそれぞれ強烈な魅力があり、読み進めれば間違いなく全員を応援したくなる。

 ちなみにわたしはその魏蘭山ぎらんざんさま推しである。上記の台詞は彼が何気なく放った言葉なのだが、彼もまた無言に終わった想いを地中に埋めているひとりなのだ。けれど恋愛要素としてそれを全面に押し出すのではなく、友情の中に小さく芽吹いただけの淡い恋心として描かれていたのがとてもよかった。

まとめ

 単なるお仕事もののキャラ文芸ではない。においさえも感じるようなリアルな世界観の中で、血の通った人間がたおやかに生きている。こう言っては身もふたもないのだけれど、とにかくおもしろいから読んでほしい。




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