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読書レビュー あるじなしとて

 面白さ★★★★★
 オススメ★★★★☆
 難しさ★★★☆☆
 ページ数:372

 ひとことで表すと……政治家としての菅原道真に焦点を当てた歴史小説

 この本は、学問の神様として知られる菅原道真の政治家としての面に焦点を当て、歴史的考察から、人の繋がりや心理描写、道真の国を良くするための志などが表現された歴史小説になっている。当時の律令制における問題に対する改革を人生をかけて行なった菅原道真の政治家としての一面が、ドラマ性のある表現を通しよく伝わってきた。

 当時の日本では、律令制下150年が過ぎており、既に実状に沿わない法制度となってしまっていた。そのせいで各地では郡司や有力郷士の不正が横行している上、実状に沿わぬことによってそもそもの民への負担も大きくなっており、政治による改革が必要な状況となっていた。
 ストーリーとしては、まず菅原道真が讃岐に左遷される(と本人は思っている)ことから物語は始まる。讃岐の国司として勤めることになった道真は、当初はその不当人事や扱いに憤り、中央から来た自分の権威を振りかざし土地の有力者達などから軽んじられてしまう。しかし讃岐での、前任者の住民との信頼感、その土地の人とのコミュニケーション、干ばつや台風などの災害、それに伴う死などを乗り越えて成長していく。最終的にはその土地の実状を改革し、民の暮らしを良くしようと中央に戻り、律令制の改革を実現する。

 このように、実際の歴史的事実に、讃岐での人とのふれあいなど小説的なドラマが加えられ、小説として面白い内容になっていた。現在、学問の神様として知られる菅原道真が何を成した人であったのか、この小説を読んでよくわかった。読んでから道真の祀られている太宰府天満宮に行くと、また今までと違った感情でお参りすることができるかもしれない。

今回の本:あるじなしとて 著 天津佳之 株式会社PHP研究所 2022

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