[全文無料: フィクショナル・エッセイ]晩秋の変容

[約1,500文字、400字詰め4枚弱]

晩秋の播州には行ったことがないが、お隣の摂津の国に春に行ったことならあるな。

神戸の灘区辺りなんだけど、住宅街にハクモクレンがあって見事に咲いてたのを覚えてるよ。

秋の話を振られて春の思い出を話し始めるのもおかしなもんだが、ぼくにとってはそのずれ加減こそが人生ってわけでさ。

例の震災の後で、ふた月以上経った三月末のことだったんだけど、地震の爪あと生々しくってやつで、そのとき見た光景は昨日のことのように覚えてるね。

ビルの中ほどの階がだるま落としみたいにぐしゃっと潰れてた奴とか、車が焼けてタイヤがなくなってるのとか、朝のラッシュ時に普通に通勤してる人たちが一杯いるのに、同じ街で公園でテントを張って暮らしてる人も普通にいたりとかね。

もう二十年以上も前のことになるけど、あのときあそこに行ったことでぼくのその後の人生変わったんだなって、今振り返ってみるとそう思う。

人生が変わるってことで言うと、ちょうど世紀が変わった直後のキノコとの出会いこそ、ぼくにとっては決定的に重要なできごとだったんだ。

いわゆるマジックマッシュルームというやつで、幻覚性の成分が入ってるキノコのことだよ。

あんなものが渋谷のセンター街とかで普通に売られてたんだから、法治国家というものがどれだけ適当なものかって話でもあるんだけど、それはさておいても、キノコというやつはホントにとんでもない代物でさ。

まずい状況で無茶な量を摂ったら、どんな事故が起きてもおかしくないくらいに強力な幻覚作用がありますからね、あいつには。

幸か不幸かじきに法律で規制されたから事故の心配はなくなったけど、危険な面だけじゃなくて、人間の束縛された精神を解き開く素晴らしい効き目も持ってるものだったから、ちょっと残念な気持ちも正直あったんだけどさ。

で、何かほかにいいものはないのかな、なんてね。

ここで秋の話に戻ってくるんだけど、長野の山の白樺林に今頃行くと、生えてるはずなんだよ、お伽話に出てくるような素敵に真っ赤なキノコちゃんがさ。

これが意識を変える作用がある上に、結構うまいらしいんだ。

ベニテングタケって言ってね、ネットで調べると猛毒の危険なキノコとか書いてあったりするんだけど、神経系に作用するとはいえ、命に関わるものじゃないから、はっきり言って大して危険なものじゃない。

同じ仲間のドクツルタケっていう真っ白くてきれいなキノコみたいに、間違って食べたら死にかねないほどのものもあるんだからね。

だからって遊び半分で食うようなもんじゃあないよ。

実際にベニテングタケを食べて、うまかったけど、頭がぐるぐる回って、吐き気に襲われて、散々な目に遭ったって、ネットで書いてる人がいたよ。

シベリアではシャーマンがこいつを使うっていうから、練習次第ではいいトリップができるのかもしれないけど、もうぼくはそっちの方は、そこまでしてやらなくてもいいかなって、そんなような話ですよ。

こっちは年中夏みたいな南国タイだから、あんまり秋の実感はないけど、長野の山でキノコ狩りでもして、晩秋の播州で晩鐘でも聞きながら炭火で焼いたキノコでも食べたら、頭の中身も自然に変性していって、実りの秋のいい夢が見れそうじゃないか。

そんな機会がありそうなら、バンジョーでも練習して伴奏するから、何かきみのお得意の歌でも歌ってくれよ。

うん、じゃ、今日はこんなところで。

あっ、最後に一句、おまけをつけとくよ。

それじゃあ、またねー。

小人らも夢見るか紅天狗茸

[2018.10.19 タイ、ノンカイにて]

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