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[全文無料: 小さなお話 002] 柔らかい時間

[約1,400文字、2 - 3分で読めます]

時間って柔らかいと思う? それとも硬いと思う?

いきなりそんなこと聞かれたって、何て答えたらいいか分からないかもしれないね。

でも、時間が伸びたり縮んだりするのは知ってるでしょ?

楽しい時間はあっという間に過ぎ去り、いやな時間はなかなか過ぎてくれない。そういう経験は誰にだってある。伸び縮みするってことは柔らかいってことだよね。

それが、大人になるにしたがって段々時間が均質になっていって、時間の柔らかさが失われてくんだ、多くの人の場合はね。

そうやって時間が柔らかさを失って硬直してくると、どうしても窮屈で息苦しくなりがちでしょ。

だからどうせなら、時間の柔らかさを保ったまま生きていきたいじゃない。

それには深呼吸をして、全身の力を抜いて、生まれたときの柔らかい時間を取り戻してやればいい。

体がこちこちに固まってたら、心も堅くなっちゃうし、そうしたら時間だって硬直しちゃうんだ。

だからまずは体を柔らかくほぐしてやって、そうすれば心も柔軟性を取り戻すし、時間だって緩んで柔らかくなって、元通り伸び縮み自在になるってことなんだよ。

せっかく時間が柔らかさを取り戻しても、楽しい時間があっという間に過ぎて、いやな時間ばかりが長く続くんじゃ意味がないよね。

でも大丈夫、柔らかい時間を味わうコツさえ分かってればね。それは別に難しいことじゃない。簡単なことなんだ。好き嫌いをしなければいいってだけのことなんだから。

好き嫌いをしなければ、楽しい時間も落ち着いてじっくり味わえるし、いやな時間の中にだって、貴重な学びがあることに気づけるんだ。

たださ、好き嫌いをなくすって、言うだけなら簡単だけど、実行は難しいかもね。だって、長い時間をかけて、みっちりと好き嫌いを育ててきちゃった人間が、「はい、今日から好き嫌いはやめます」って言ったからって、そうそうパッとはやめられないもんね。

だから、もしきみが「硬直した時間は窮屈だな」って感じるんなら、時間を柔らかくするための練習をじっくりしてみるのもいいかもって話なんだ。

毎朝ラジオ体操でもするように、毎朝時間を柔らかくする練習をしたらいいって話だよ。

きみはもう忘れちゃったかもしれないけど、生まれ立ての柔らかい時間ていうのは、実に素敵なものさ。

曇りの欠けらもない澄み渡った水晶が発振して、この世に降り立ったばかりの時間の粒を震わせるとき、トルコ石色の調べがひんやりときみの耳に滑りこんできて優しく鼓膜を揺らすんだ。

その時間の響きさえ、しっかりと心にとどめて置くことができれば、いつか地球が太陽に飲み込まれて、そのまた未来永劫の果てにこの宇宙が熱死を迎えるときがやってきたとしても、きみは世界と一つになって、永遠の一瞬を味わい続けることができるのさ。

だから今は覚えておくといいよ。柔らかい時間のことをね。このことだけは忘れずに、心の隅っこでいいからこっそりとしまっておくんだ。そうすればきみは、世界の秘密が詰まった宝箱の鍵を持ってるのも同然なんだから。

柔らかい時間、忘れないでね。
それじゃあ、また。

[2018.11.10 西インド、プシュカルにて]

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