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企業の共創によるビジョンデザインのアプローチの検討(2023年度冬季HCD研究発表会)

株式会社マネーフォワードとニッセイ情報テクノロジー株式会社の共同研究の活動について、2023年11月25日のHCD研究発表会にて発表しました。

発表内容は、2023年7月から始めた「共創によるビジョンデザインのアプローチの検討」についての実践報告です。


この記事はその発表内容をまとめたものになります。

「新しい価値創出やビジョンデザインのアプローチに興味がある」「共創の取り組みに興味がある」方の参考になれば幸いです。



背景

マネーフォワードは、パートナー企業との共創事業を担うマネーフォワードエックスカンパニーにおいて、新たな金融サービスを創出する際にデザインアプローチを活用しています。


また、ニッセイ情報テクノロジー株式会社はシステムインテグレーション事業を中心としながら、他社との共創によるプロダクト開発に取り組んでいます。

社会環境の複雑性や不確実性が増している現代において、企業は外部環境に基づいた意思決定だけでなく、自身のビジョンに基づいた意思決定が求められます。
例えば、保険業界においては、既存の課題や顧客のニーズから新たな価値を創出することが難しくなっています。

そこで、新たな価値の創出につながるビジョンデザインのアプローチ、共創による実行可能なチームをつくる実験を始めました。


概要

本プロジェクトにおけるビジョンデザインは、以下のように定義しました。

以下の5つのステップで実践しました。

各ステップで実践したことをご紹介します。


1. チームビルディング

チームビルディングでは、ゴールデンサークル理論を活用して、WHY(プロジェクトの信念・目的・理由)、HOW(どのような手段で行うのか)、WHAT(何をするのか)のそれぞれの要素について、個人で考えた後にチームでまとめました。

ちなみに、ドラッカー風エクササイズを使った自己紹介もして、メンバー同士であだ名で呼び合うきっかけになりました。


2. テーマ設定

テーマ設定では、チームのゴールデンサークルに基づいてテーマ案を展開し、不確実だが実現すれば価値が大きいと考えられるか、検討範囲が明確であるかという視点で、「離婚する人が前向きで幸せな未来を描ける」というテーマに絞り込みました。


3. テーマに関する過去/現在/未来の調査と分析

デスクトップリサーチによる離婚/結婚という慣習や価値観の変化についての調査、離婚/結婚の経験についてのインタビュー調査の結果を産業の変化、慣習、制度、個人の感情という視点で分析し、アイデアにつながる気づきを得ました。

未来の調査では、未来仮説をパターン化した「未来コンセプトペディア」をビジョンアイデアの発想に活用する要素として調査し、2030〜2040年の技術や社会の変化に関するヒントを得ました。


4. ビジョンアイデアの展開

テーマに関する過去/現在の調査と分析から得られた気づき、2030〜2040年の技術や社会の変化に関するヒント、内省によって探索した個人のやりたいことを組み合わせてアイデアを展開しました。


5. ビジョンアイデアの構造化

各自で展開したアイデアを共有し、各アイデアの関係性を視覚化/文章化してチームとしてのビジョンアイデアをまとめました。


効果・今後の課題

今回の実践によって、「ビジョンデザインのアプローチによる価値創出の観点」と「企業を超えた共創の取り組みの観点」で、それぞれに効果があり、今後の課題が見えてきました。

ビジョンデザインのアプローチによる価値創出の観点での効果

ビジョンデザインのアプローチによる価値創出の観点では、多角的に状況を捉えられる効果がありました。

例えば、テーマに関する過去/現在/未来の調査と分析を通じて、江戸時代の農民・町民の銘々稼ぎ(共稼ぎ)について理解を深める中で、現代の共働き世帯は、江戸時代の価値観に類似(回帰)しているのではないか? 戸籍制度と家単位について理解を深める中で、江戸時代の戸籍制度と家の単位が、離婚をネガティブな要素にする一因として、現代の価値観にも普遍的に存在しているのではないか?という気づきを得られました。

このように、過去と現在の比較により変化に気づいたり、普遍的な事象、過去の状態に回帰している事象などを発見しました。

ここから得られた学びは、調査の観点は特定の課題に収束せず、広がりを意識することで未来予測につなげられるということです。広がりをつくるために、気づきを得るための着眼点を意図的に準備しておく必要があると考えられます。

今回の取り組みでは「当時の習慣や制度はどのような成り立ちがあるか?」「普遍的または回帰している事象はないか?」「人々の感情や課題意識と因果関係のある習慣や制度がないか?」といった着眼点から気づきを得られました。


ビジョンデザインのアプローチによる価値創出の観点での今後の課題

今後の課題の一つは、ソリューションの具体化です。

発表の時点では、ビジョンアイデアから具体的なプロトタイプやソリューションに落とし込むアプローチの実験まではできていません。
そのため、仮説検証型の反復的な実験サイクルを回しながら、ユーザーの反応に基づいてビジョンそのものやソリューションを改善したいと考えています。
具体的には、下記のアクションを検討しています。

  • ビジョン到達までの状態をバックキャストで仮説設定する

  • 検証を行う観点を絞り、必要なプロトタイプを準備する

  • 短期間で検証可能なテーマ設定を行い、ビジョン自体やソリューションの改善を反復的に実施する


企業を超えた共創の取り組みの観点での効果

企業を超えた共創の取り組みの観点では、異なる企業文化から刺激を得られる効果がありました。

例えば、ビジョンアイデアの展開時に、持ち寄ったアイデアに対し、メンバー各々が相手のアイデアに乗っかって意見を出し合うことができました。そのおかげで、正解の無いディスカッションも前向きに進みました。
従来組織の傾向として、「成功や正解を探す・失敗を避ける」や「組織や顧客のWillが、自身のWillになることが多い」一方で、本プロジェクトのチームメンバーの傾向としては、「成功・失敗を受け入れる、ゴールに向けて楽しむ」や「組織や顧客のWillと別に、自分のWillを持っている」ことに気づきました。
文化や思考の異なるメンバー・チームと仕事をすることによって、自身の振る舞いを意識的に変えることができました


企業を超えた共創の取り組みの観点での今後の課題

もう一つの今後の課題には、構造化したビジョンの解像度に関する議論ができていないこと、組織のミッション・ビジョン・バリューや、メンバー個人が実現したいこととの結びつきが弱いことがあります。

振り返りの中で、「チームとしての内省の共有や対話はあまりできなかった」「2社で検討する価値のあるテーマになるように、キーワードを決めておくのが良かったのではないか?」「知っているところ、優位性のある点だと、踏み込んだアイデアが出せるのではないか?」といった意見が出てきました。

改善方針としては、個人の内省・対話および、プロダクト開発を意識した両社の優位性を棚卸しして、ビジョンアイデアに対する着眼点を見直したいと考えており、具体的には下記のアクションを検討しています。

  • 個人の成し遂げたいことの内省、対話のワークを追加する

  • 各社の組織のミッション・ビジョン・バリューや優位性を棚卸しする

  • 上記をインプットとして、ソリューション検討時の着眼点、優先順位付けの条件を考慮する


終わりに

本プロジェクトでは、企業の共創によるビジョンデザインのアプローチを検討し、ビジョンアイデアの展開への効果と共創によるチームビルディングの効果が得られました。

両社の知見や経験を共有しながらプロジェクトを進められ、お互いに刺激し合えたことが共創の価値の一つだと感じています。

自分たちなりのビジョンデザインのアプローチを実践してみた結果、「離婚/結婚」というテーマを軸にしながら、「柔軟な生活スタイル」「オープンな教育環境」「自分と向き合う」といった周辺のテーマのアイデアも展開され、解釈の余地のあるビジョンができました。

一方、ビジョンアイデアのプロトタイピングについては今後の課題であり、ビジョンアイデアと両社の優位性やアイデアを実行したい理由との関連を見出し、具体的なプロトタイプにつなげることを検討しています。

ビジョンは個人の想いを起点につくるものと考えると、最初のテーマ設定自体が、個人の関心や問題意識から考えているので、ビジョンを考える際のポイントの一つだったのではないかと思います。

実験的なビジョンデザインのステップを行き来しながら、あらためてチームメンバーの想いを共有し合ったり、解像度を高めた納得感のあるビジョンを紡ぎ、ビジョンデザインのアプローチとビジョンアイデアのプロトタイピングを進めていきたいと考えています。


これまでの活動を振り返った各メンバーのコメントからは、楽しみながら実験的な共創の取り組みができていること、今後の活動にもポジティブな可能性を感じていることがわかります。

引き続き、共創によるビジョンデザインのアプローチを実践していくのが楽しみです。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。


参考文献

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