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2021年9月の記事一覧

トランストロンメル 詩抄 (8) Translated by Toshiya Kawamitsu

トランストロンメル 詩抄 (8) Translated by Toshiya Kawamitsu

  夜のまがり角

アカアリ しずかに 見つめます
なんにもないのに 見ています
聞こえないのに うす暗い
葉から したたる 夜は 鳴く
ささやく 深い 夏の谷
モミの木の枝 立っている
とげ とげ 時計の針のよう
アリは かがやく 丘の影
最後に 鳥も 鳴きました
雲のかたまり ゆっくりと
もく もく のぼりはじめます

Midnight Turning Point

トランストロンメル 詩抄 (7) Translated by Toshiya Kawamitsu

トランストロンメル 詩抄 (7) Translated by Toshiya Kawamitsu

  早朝接岸

太陽 小船に 黒カモメ
かじをとっては 航路 決め
つばさの下には 水 たたえ
世界は 眠る 水のなか
まるで 虹色 石のよう
解読されない一日は
神聖文字の日々に似て

音楽 そして 手をあげて
ゴブラン織のなかにいて
姿はそこから ぬけだして

Morning Approach

トランストロンメル 詩抄 (5) Translated by Toshiya Kawamitsu

トランストロンメル 詩抄 (5) Translated by Toshiya Kawamitsu

  ゴーゴリ

オオカミの群れ 外套は
すりきれ 顔も 大理石
嘲笑 あやまち かさ こそ と
手紙の森に すわってる
心臓 きれはし なびく 風
よそよそしい顔 この廊下

夕日 はいよる キタキツネ
たった一秒 窓 見つめ
角と ひづめに 満たされた
真下の空間 四輪馬車
中庭 中庭 そのあいだ
サンクトペテルブルクでは
緯度が同じで 全滅だ
(見たか 斜塔のうつくしさ)
ふらふら 家は 凍り

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トランストロンメル 詩抄 (4) Translated by Toshiya Kawamitsu

トランストロンメル 詩抄 (4) Translated by Toshiya Kawamitsu

  ボレロ

バザール しずかな 円 えがく
のたり のたり と 白昼に
草のくつわを 噛みしめて
鼻息 あらく 岸に泡
世界は ベールのなか 暗い
コウモリが 飛ぶ 暗い夜
バザール 終わって 星 となる
のたり のたり と 白昼に
鼻息 あらく 岸に泡

Ostinato
Translated by Toshiya Kawamitsu

トランストロンメル 詩抄 (3) Translated by Toshiya Kawamitsu

トランストロンメル 詩抄 (3) Translated by Toshiya Kawamitsu

  朝夕


マスト 朽ちはて 帆は しなび
カモメ
酩酊 流れに 急上昇
波止場
黒こげ 真四角 闇の底
外へ出る 朝 羽ばたいて
鼓動 感じる 大洋の
入口 通路は 花崗岩
太陽 はじける この世界
窒息しそうな 神様は
海上 霧に 手探りで

Evening-Morning
Translated by Toshiya Kawamitsu

トランストロンメル 詩抄 (2) Translated by Toshiya Kawamitsu

トランストロンメル 詩抄 (2) Translated by Toshiya Kawamitsu

  あらし

歩いて ここに 突然に
巨人のブナが あらわれる
まるで ヘラジカ 王冠は
ファーロン 二〇一メートル
七月の海 黒々と
暗い みどりの 要塞の
北風 あらし ナナカマド
みのる 季節に 目がさめる
暗闇のなか よく聞いて
はるか 木の上 焼きつけて
かなた 星座を 焼きつけて

Storm
Translated by Toshiya Kawamitsu

トランストロンメル  詩抄 (1) Translated by Toshiya Kawamitsu

トランストロンメル 詩抄 (1) Translated by Toshiya Kawamitsu

  序曲

夢から さめる パラシュート
呼吸も 心も みだされず
朝のみどりに しずみゆく
万物炎上 視点 ゆれ
うかれて ゆれる 地下ランプ
根っこのしくみに 気づいてる
土の上では 葉の洪水
腕を もちあげ 聞いている
見えない ポンプの そのリズム
あなたは 夏へと 飛びこんで
まばゆく 落ちる クレーター
しめった みどりの 年輪は
シャフト ふるえる 空の下
タービン 太陽 燃える 下

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詩 364

詩 364

  小声

頭上の約束 楕円形
オレンジ つかむ 好奇心
終止符型の中庭で
到着を待つ ポプラたち

影を落として またたいて
城壁 遠く また 近く
まるで 希望か 種のよう
磁石にくっつく 放浪者

アルコールランプ こと こと と
光にあふれているようで
いま 起こそうとしている 記憶

かがやかしくも かなしくて
引き裂く ベッドの端にいて
血管のなか 小声で めぐる