ピンチをピンチに! ~ハブタエンヌは眠らない~ その11
* * *
コブタエがどう過ごしているかと気になったシロネは、再び犬狛国の宮殿を訪れていた。
庭を歩いて玄関へと向かう途中、猛スピードで走るコブタエに遭遇する。
「コブタエ!」
「…シロネ!」急ブレーキをかけて止まるコブタエ。
「勉強、ちゃんと進んでるか?」
「あ、あの…」
「へえ。金平糖が受験に使う最後の一粒になってるな」コブタエのベレー帽を見て、うれしそうに言うシロネ。
「ええ、人助けで使い切り……そうじゃなくて、大変なんです!」
コブタエは、さっき蔵で見たことをシロネに話した。
ずっと不機嫌な顔のシロネ。
「スパが犯人だとでも言うのか」
「だって変です。この前だって、王女の部屋のベランダから降りてきました」
「仕事してただけだろ。缶切りのことだって突き止めたから確認してただけだ」
「でも逃げるのは怪しいです」
「俺は部下を信じる」後ろを向くシロネ。
「ともかく缶切りは探さないと」
「王女の許可を得て、俺が蔵で探す」
「じゃあ私も」
「ノーサンキューだ」
コブタエ「シロネ…」
去っていくシロネの後姿を悲しそうに見つめるコブタエ。
“私は信じてもらえないのですね…”
* * *
目を覚ますシノブ。頭から血が流れている。
「ここは…?」
縛り付けられている椅子を引きずり、テーブルの上のライターを取ろうとするシノブ。
テーブルが倒れ、転がるライター。
何とかライターを手にし、手を縛っている縄に火を点け、縄を解く。
「クロネさま…!」
シノブは部屋の外へ飛び出した。
その少し前、シノブが監禁されていた隣の部屋には、頭巾を被り、ボイスチェンジャーを手にしたスパが入って来るところだった。
部屋には、椅子に縛り付けられ、鼻をふさがれ、ぐったりしているクロネがいた。
「暑いな。エアコン壊れたのか?」スパがだるそうに言う。
「…その声は…スパ?」気が付くクロネ。
「おっと」
「おまえが犯人だったのか…」
ふーっと息を吐き頭巾を外すスパ。
「ああ」
「なぜだ、スパ。兄さんの信頼を裏切るのか」
「信頼? 笑わせるな。あんたの密偵を国の一番手に任せると言って、シノブをその任に就かせた。なぜ俺じゃない」
「それは闘技大会の結果で…」
「だったら俺はダイヤモンドツナの“力”で頂点に立つまでだ!」
「バカなことを考えるな。兄さんがここを嗅ぎ当てるのも時間の問題だ」
くっくと笑うスパ。「この部屋は外に匂いも音も漏れない。さすがのシロネさまもたどり着けないさ」
「…シノブはどうした」
「誘拐の罪、いや、誘拐殺人の罪を被って自殺してもらわないといけないのでね、それまでは無事ですよ」
「スパ!」
「辞世の句でも考えておいてください」
部屋を出て行くスパ。
スパが行ったのを確認して、シノブが部屋に入る。
「クロネさま!」
血だらけのシノブを見て愕然とするクロネ。
「おまえケガを!」
それには答えず、素早くクロネのロープを解くシノブ。
「今のうちに隣の部屋へ。鍵をかけてクロゼットに隠れてください。スパを仕留めてから助けに参ります」
部屋を出るシノブ。その後ろにクロネ。
「おーや、おふたりさん」二人の後ろから声をかけるスパ。「そうは行くかよ!」
クロネに襲い掛かるスパ。
シノブの爪4本が長く伸びて剣に変わり、スパからクロネを守る。
「そのケガで俺に勝てると思うのか」
スパの爪4本も伸びて剣に変わる。激しく弾き合う両者の剣。
ふらつく体を懸命に支えてスパに立ち向かうシノブ。
スパの剣がシノブの剣2本を折る。
「あと2本」
「くっ…」
自分のスカーフをほどき、スパとの間にひらつかせ、ライターで火を点けるシノブ。
大きな爆発音と煙にひるむスパ。
「フラッシュペーパーか…」
その隙に、壁のダストシュートを開き、クロネを押し入れるシノブ。
「どうかご無事で!」
「シノブ!」
クロネはシュートの中を落ちて行った。
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