図書館から借りてきた4冊の本の2冊目は
中川五郎さんおすすめの
【夕暮れに夜明けの歌を 文学を探しにロシアに行く】です。
著者は名倉有里さん。
未知なる恍惚
記憶を辿ってみると、「ソ連崩壊」のニュースに驚いたものの、
私は有里さんのご両親ほどには衝撃を受けていなかった気がします。
身近なアメリカに比べ、
ソ連は「あまりよく知らない、あまり知りたくもない国」
だったように思えます。
いきなりスペイン語を学び始め、単語を覚えるために、
家じゅうの家具とか家電に
マジックペンでスペイン語を書いていたユニークなお母様の影響で、
有里さんは高校1年になったとき、
英語以外の言語がやりたいと思ったそうです。
その頃の好きな作家はゲーテとトルストイでしたが、
ドイツ語はお母様に勝てないと思って、
ロシア語を学び始めたことが将来を決めていきました。
そして20歳になる冬、2002年から2003年にかけての冬、
ペテロブルク行きを決心しました。
この本は有里さんが一人でペテログルクに行き、
モスクワ大学を経て、ロシア国立ゴーリキ文学大学で学んだ日々のことを、
書いた随筆・・奮闘記です。
ゴーリキー文学大学は、
全学年を合わせても学生数が約250名という小規模大学です。
日本では馴染みがありませんが、
ロシアでは知らない人のいない特殊な大学です。
帝政ロシア時代から、作家や詩人が社会思想を形成する核を担ってきた歴史があり、
ロシア革命後も、ソ連連邦は作家を人々の思想の根本を作り上げる職業として重視し、1933年に創設しました。
プーシキン駅近くのアレクサンドル・イヴァーノヴィチ・ゲルツェン(哲学者、作家)
の生家を校舎として利用しました。
有里さんはユーリと呼ばれます。
ロシアではユーリはポピュラーな男の子の名前です。
仲良しの友人もでき、
見識も広がっていきました。
言葉を補う光を求めて
1960年代、私がまだ子供のとき
ロシア文学は今よりもっと読まれていたと思います。
小学生の私でもトルストイやドストエフスキーの名前は知っていました。
「戦争と平和」「アンナ・カレーニナ」は映画で見ました。
中学生のときNHKロシア語講座を聞いていました。
スペイン語やイタリア語でなく、
なんでロシア語だったのかといえば
ロシア文学を読んでいたからです。
昨今文学は必要ないという意見が多くなっています。
もっともっと実用的な文章を学んで方が
「役に立つ」と思っているのでしょう。
最後の有里さんの言葉をぜひ贈りたいと思いました。
記号から思考へと続く光・・・全くその通りだと思います。
この本を中川五郎さんが勧めてくれた意味がわかります。
ぜひお手に取ってお読みください。
現在のウクライナ情勢についての、
異なった視点をもつことができると思いました。
目次
1 未知なる恍惚
2 バイオリン弾きの故郷
3 合言葉は「バイシュンフ!」
4 レーニン像とディスコ
5 お城の学校、言葉の魔法
6 殺人事件と神様
7 インガの大事な因果の話
8 サーカスの少年は星を掴みたい
9 見えるのに変えられない未来
10 法秩序を担えば法は犯せる
11 六十七歩の縮めかた
12 巨匠と……
13 マルガリータ
14 酔いどれ先生の文学研究入門
15 ひとときの平穏
16 豪邸のニャーニャ
17 種明かしと新たな謎
18 オーリャの探した真実
19 恋心の育ちかた
20 ギリャイおじさんのモスクワ
21 権威と抵抗と復活と……
22 愚かな心よ、高鳴るな
23 ゲルツェンの鐘が鳴る
24 文学大学恋愛事件
25 レナータか、ニーナか
26 生きよ、愛せよ
27 言葉と断絶
28 クリミアと創生主
29 灰色にもさまざまな色がある
30 大切な内緒話
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