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創作の秘訣はホースライディング


僕の名前はトシバウロン。
バウロン、というアイルランドの太鼓を演奏している。

音楽をやっているが、実はずっと小説を書きたいと思っていた。
でも創作するのが苦手。
長い話を書き続けるのが苦手なのだ。

今日はそんな創作の秘訣についての話。


昔、近所でシンガー・ソングライターの中村まりさんとお花見をしていた時。
ふと創作の話になった。
まりさんはどのように歌を作っているのだろうか。
気になって聞いてみた。

まりさんには尊敬しているアメリカのミュージシャンがいて、その人の言葉を大事にしている、と言った。

「創作はホースライディング」


ずっと馬にしがみついて、振り落とされないようにする。
それが創作の秘訣だという。

意外なような、でもまりさんらしいような。
泥臭いけど、真理なんだろう。まりの真理。

その話を聞いていて、なんだか無い襟を正すような、そんな気分になった。

僕は創作中、思考が止まるとすぐに席を立ってしまう。
用もないのに用を足しに行き、飲みたくもない水を飲む。
ウロウロ家の中を歩いては、また席に戻る。
振り落とされまくりなのだ。
しがみつくのは苦手なのだ。

やはり創作ができる人は我慢強い人なんだなあと思い知る。

以来、歌を作る人や物語を書ける人は、皆、馬に乗れる人のように見えてきた。
カウボーイ・カウガール風の颯爽とした姿。
いい歌や物語に出会うと、馬で草原を駆けていく、そんな光景が浮かぶ。

ある時、思った。
そうか、馬に乗れたらいいんだ。
そうしたら歌も物語も作れるようになるかもしれない。

干支が午年の僕は、思い立ったが吉日という言葉を大事にしている。
なので思い立って、すぐモンゴルに行った。
モンゴル音楽を演奏する友人・岡林さんの案内で。

素晴らしい、何も無い、見渡す限りの草原。
そんな中、やがて馬に乗る機会に恵まれた。
自分で思っていたよりも、意外と簡単に乗れた。

おお! 乗れるじゃないか。これがホースライディング!
調子に乗って立ち乗りも挑戦した。
だが、不幸なことに落馬してしまった(僕のせいではない)。

痛みが酷い。
呼吸もできない。
意識が遠くにあるようだ。

そんな時、遠くから岡林さんが近寄ってきてくれた。
おそらく介抱してくれるのだろう。
だが、痛すぎてそれどころじゃない。

黙ってウンウン唸っていると、一言だけそっと声をかけてくれた。

「落馬ウロンだね」


一生忘れない、あの一言。
それは、僕にかけた呪いの言葉。


こうして僕は人生の創作活動から落馬したのだった。


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