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「使う人の“うれしさ”を広げたい」鉄道輸送計画システムのデザインに込めた人を想う気持ち

みなさん、こんにちは。東芝UIデザインチームでプロジェクトのマネジメントやディレクションをしている土肥です。

今回は、「使う人の“うれしさ”を広げたい」と題しまして、鉄道輸送計画システムのUX/UIデザインをご紹介しながら、デザイナーとして大切にしたことをお話したいと思います。

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スジ屋って知ってますか?

皆さんは、鉄道の時刻表がどのように作られているかご存じですか?
普段から鉄道を利用している方でも、誰が何を考えて作っているのかご存じの方はあまり多くないのではないでしょうか。

鉄道会社には「鉄道を利用する人がうれしくなる時刻表を作りたい!」という想いを持って日々仕事をされている職員さんがいます。

その人は時刻表をダイヤグラムという折れ線グラフで表現するのですが、列車を表す一本の線をスジと呼ぶことから、この職員さんは「スジ屋」と呼ばれています。

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ダイヤグラムの例

この時刻表を作る仕事は非常に複雑です。

例えば、駅間の所要時間は列車の走行性能と運転操作によって変わりますし、線路の条件も影響します。また、時刻表の通りに運行するためには、列車と乗務員のやりくりを考える必要もあります。

そしてなにより、路線や各駅の需要を考慮しなければなりません。
他にも、車両や線路を点検するタイミングだったり、車両を使っていない時に留め置く場所だったりと、様々なことを考えて調整し連動させる必要があるため、スジを一本書くだけでもかなりの手間と時間が掛かります。

この一連の業務は輸送計画と呼ばれており、その複雑さからスジ屋の仕事は大変なものであると容易に想像できるでしょう。

顧客の“うれしさ”を考えたい人に、デジタル化とデザインで応える

今回ご紹介する輸送計画システムは、2010年代の初め頃に開発していました。その頃、スジ屋はこの複雑な輸送計画を、手作業で行っていました

例えば、様々な時刻表のアイデアを思いつくたびに、ダイヤグラムを手で書いては消すを何度も何度も繰り返すのですから、アイデアをじっくり考えたくても手書きする作業に膨大な時間を取られるのが大きな問題でした。

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スジは一本ずつ緻密に計算しながら手書きで検討されます

東芝では、この輸送計画業務をコンピューティングで支援するシステムを以前から提供してきました。これによって精度の高い検討を行えるようになっていましたが、複雑かつ多岐にわたるデータを文字や数値で一つひとつ入力せねばならないこともあり、アイデアを考えるときの手書き作業まではデジタル化できていませんでした

そこで、鉄道会社の顧客である鉄道利用者がうれしくなる時刻表を作るための「考える時間がもっと欲しい」というスジ屋の声に応えるために、「いろんなアイデアを簡単に考えられる」ツールとして新たな輸送計画システムの開発に挑むことになりました。

アイデアを素早く検討できる、ちょっと楽しいUIデザイン

この新たなシステムを、いろんなアイデアを簡単に考えられるツールにするためには、ユーザーであるスジ屋が手で書くように自分のアイデアをシステムに反映できるUXが必要だと考えました。
そこで、対象となる業務とその作業内容が一目で理解できるように可視化し、手書きのようにダイレクトに編集できるUIの実現を目指し、これをコンセプトに据えました。

※UIデザインの特徴を表したイメージです

例えば、冒頭にご紹介したダイヤグラムは、ご覧のように鉛筆の代わりにポインタをドラッグするだけで簡単にスジを書いたり修正したりできます。また、スジの修正によって影響を受ける他のスジも自動で調整されます。
これによって、様々なアイデアを素早く何度でも繰り返し検討できるようになりました。

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ダイヤグラムの基本的な検討はスジを直接編集するだけで行えます

先ほど、輸送計画業務は様々なことを調整して連動させる、複雑な仕事であるとお話ししました。このシステムでは一連の検討をどのように行うのか、業務の流れに沿って少しだけご紹介します。

まず、どんな列車を走らせるのかを考えます。
列車は連結する車両の種類や数といった編成の内容によって走行性能や乗車定員が変わり、所要時間にも影響します。
その検討作業を、鉄道模型のように車両を繋げるだけで行えるようにしました。

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用途や動力源の異なる様々な列車を検討できます

走らせる列車が決まったら、次は所要時間を計算します。

列車が走る路線ごとに、線路の曲がり具合や勾配、信号の位置や制限速度などの制約が決まっており、これらを踏まえてどこでどの程度加速と減速をすれば所要時間やエネルギー効率などを最適化できるのかを考えます。
このシステムでは、運転士が実際に行なう運転操作を選ぶだけで検討できるようにしました。

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運転操作を選ぶだけで路線に最適な走行を検討できます

所要時間が決まれば、先ほどのダイヤグラムを書けるようになります。

しかし、時刻表の通りに列車を走らせるには、何十両から何百両もある車両を効率的に割り充てなければなりません。例えば、ある列車がその日の仕事を終える終着駅と、次の日の仕事を始める始発駅は、同じ駅である方が運用を効率化できます。また、車両を清掃したり点検整備したりするタイミングも重要です。

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パズルのピースを嵌め合わせると列車を効率的に運用できます

こういった複雑な検討も、このシステムではパズルのピースを嵌めるだけで行えるようにしました。このパズルのピースは一本の列車の一日の仕事を表し、左の凸は始発駅を、右の凹は終着駅を表しています。

この凹凸、見覚えがありませんか? 実はこの形、自動改札が普及する前に使われていたきっぷの切り欠きをモチーフにしています。昔は、改札で駅員さんが、乗客のきっぷを一枚ずつ確認して、改札パンチと呼ばれる専用のはさみできっぷに切り欠きを入れていました。その切り欠きの形が、駅別に決まった凹凸になっていたのです。

この他にも、乗務員の割り当てたり、車両基地で列車を留め置く位置を決めたり、線路の点検整備を予定したりと、輸送計画を考えるための様々な機能があります。これらのUIも、業務の内容が一目で分かってダイレクトに扱えるようにデザインしています。

遊びゴコロに込めた真面目なビジネスの視点

従来の輸送計画システムでは、鉄道会社ごとに専用のシステムをオンプレミスで開発するのが主流でした。一方、このシステムは、機能を標準化したWebアプリケーションとして開発し、リリース当時はまだ珍しかったサブスクリプション方式でご提供しています。これにより、日本を含めた世界中のスジ屋が、インターネット環境さえあれば安価にご利用いただけるようになりました。

しかし、世界中のお客様に広くアプローチするには、インターネットを活用したプル型のマーケティング活動が必須となります。そこで、UXやUIをデザインをするうえでビジネスの側面を意識して心掛けたことがあります。

1.機能や特徴が分かり、魅力を感じられること

Webサイトに来ていただいたお客様にこのシステムの魅力を伝えるためには、実際に使うまでもなく、画面を一目見るだけで機能や特徴を理解できることと、試してみたいと思ってもらえることが大事だと考えました。

2.操作がシンプルで覚えやすいこと

試していただけても、使い方が難しければ導入したいと思ってもらえません。契約いただけても、お客様にとって操作を習得するための時間と労力が掛かります。そのため、お客様が時間と労力を費やすことなく、自立的に操作を習得できるようにしました。

3.ずっと使い続けたくなること

サブスクリプション方式の場合、価値を感じられないとすぐ解約につながってしまいます。それはお客様にはシステムを導入し直すご迷惑を掛けることになりますし、弊社のビジネスとしても損失です。そこで、簡単に扱えて楽しさも感じられ、好きになってもらえることを目指しました。

このように、この輸送計画システムのUXやUIのデザインでは、スジ屋の想いに応えるために機能性とその表現を真面目に考えただけでなく、手軽に扱えることで少しでも仕事が楽しくなり、このシステムが無くてはならない存在になってもらいたいという気持ちを込めています。

使う人の”うれしさ”を広げたい!

最後に、私たちの理念について少しだけ紹介いたします。

東芝グループでは「人と、地球の、明日のために。」を経営理念として掲げています。東芝のデザイン部門では、この理念から生み出された数々の製品の歴史をひも解き、「人を想い、うれしさを循環させる」ことを心に留めてデザインに取り組んでいます。

うれしさの循環

これは今回ご紹介した輸送計画システムにも当てはまります。

まず、ユーザーであるスジ屋にとってうれしい経験価値とは、より良い時刻表を作ることです。このシステムによって手作業が効率化された分、鉄道利用客である皆さんがうれしくなる時刻表を考える時間が増えます。

次に、鉄道会社にとってうれしい事業価値とは、経営の効率化です。より良い時刻表の検討支援を通じて、鉄道利用者の利便性向上と車両や乗務員といったアセットの最適な運用を両立できれば、経営面でも貢献できると考えています。

そして、鉄道利用者である皆さんにとってうれしい社会価値とは、移動の効率化とその副次的な効果です。例えば所要時間が10分短縮されたとしたら、その分、出張先での打ち合わせに余裕をもって臨めたり、ちょっとだけ長く恋人と過ごすことができたりといったように、小さなうれしさとなって皆さんに届くことになると思うのです。

このシステムに限らず、こういったことを頭の片隅で思い描きながら、日々デザインに取り組んでいます。

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私たちのUXデザイン・UIデザインによって、ユーザーを起点とした「うれしさの循環」を生み、少しでも豊かな社会の実現につながるとしたら、こんなにうれしいことはありません。
最後まで読んで頂きましてありがとうございました。

ライター:土肥

ご紹介した輸送計画システムはこちら
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