『クレージー作戦 くたばれ!無責任』(1963年10月26日・東宝・坪島孝)
「クレージー作戦」シリーズ第二作。前年の1962(昭和37)年の『ニッポン無責任時代』(古澤憲吾)にはじまる東宝クレージー映画は、この年、1963(昭和38)年に入ると、植木等単独主演作の「日本一」シリーズと、クレイジーキャッツのメンバー全員が活躍する「クレージー作戦」シリーズの二大シリーズへと広がっていく。前者は東宝サラリーマン喜劇のバリエーションのバイタリティ喜劇、後者はメンバー全員が一つの目的に向かって邁進するオールスター映画。フランク・シナトラ一家の『オーシャンと11人の仲間』(60年・米)のようなスタイルの作品となっている。
「スーダラ節」で作詞の青島幸男が創り上げた「スーダラ男」のイメージに、『ニッポン無責任時代』で「無責任男」という視点を加えてパワーアップさせた脚本家の田波靖男が、『ニッポン無責任野郎』(62年古澤憲吾)以来に脚本を担当。「くたばれ!」と、自ら「無責任」への幕引きをしているのも興味深い。同時に本作より、クレージー映画が新たな展開を見せていくことになる。
監督に抜擢されたのが、この年『写真記者物語 瞬間に命を賭けろ』でデビューしたばかりの新鋭・坪島孝。アメリカ喜劇をこよなく愛し、その温厚な人柄は作風にも反映されている。
植木等扮する主人公・田中太郎は、鶴亀製菓のショボクレたサラリーマン。何をやっても気後れして、全く覇気がない。ところが、同社が開発した興奮剤入りのハッスルコーラを一度飲むや、元気モリモリ! ポジティブで豪快なキャラクターに大変身。モノクロ画面でショボクレた田中太郎を描く冒頭、ハッスルコーラを飲んでパワーアップした瞬間、画面がカラーとなる。
この戯作精神! これが坪島孝のクレージー映画の魅力だろう。経営不振に陥った鶴亀製菓の石黒専務(山茶花究)は、興奮剤入りの清涼飲料を大々的に売り出そうとするが、それが法に引っかかると知って、社内のダメな社員たち(クレイジーキャッツの面々)をハッスルコーラ販売会社に出向させるというリストラ策に出る。サラリーマン社会のトカゲの尻尾切りに対して、田中太郎以下七人組は、猛反撃を開始する。
植木等がハッスルコーラを飲んだ途端に歌い出す「ハッスル・ホイ」(作詞:青島幸男/作曲:萩原哲晶)は、90年代に植木等がセルフカバーをした名曲。そして、東宝名車座にもなったミゼットに乗った植木等が歌う「オート三輪進軍ラッパ」(同)。一見落着とメンバーが歌う「ホンダラ行進曲」(同)やラスト、丸の内をメンバーが行進しながらの「くたばれ!無責任」(同)などのナンバーも楽しい。
昭和30年代は、貿易自由化を前に、国産ブランドのコーラ販売合戦が熾烈を究めていた。この映画の魅力の一つは、いわゆる架空企業モノである「ハッスルコーラ」のブランドイメージである。タイアップというかたちで協力しているペプシコーラの工場での製造ラインのロケーション。オリジナルのリターナブル瓶のラベルデザイン。そして6本入りの携帯用紙サック! 当時としては普通の表現でも、五十七年を経た今の視点では、魅惑の“架空企業アイテム”である。