『日本一のゴマすり男』(1965年・古澤憲吾)

さて本日は『日本一のゴマすり男』(65年・古澤憲吾)から。いきなりバスを降りてきて「愉快だね」を踊りながら歌う植木さん。お母さんは吉川満子さん。どこまでも松竹映画の味(笑)で、お父さんはエノケン一座の中村是好さん。2分40秒でゴマすり鉢が登場。この冒頭だけで楽しい世界が始まるのです。
一言でいうと高速道路をスーイスーイ走るような映画。とにかく勢い、問答無用のテンポで展開していく。後藤又自動車(柳瀬自動車タイアップ)に入社した中等(なかひとし)が口八丁のセールステクニックでどんどん出世していく。それだけの話。浜美枝さんのツンデレぶりがイイ!
「高度経済成長のニッポンって、どんなだったんすか?」の問いに一発回答するなら『日本一のゴマすり男』を見ろ!でOK。昭和40年の東京の空気がパッケージされて、みんなが期待していたのか、何を享受していたのか、それを体感できる映画としてはNo. 1です。もちろん負の側面などは描いてませんが。
後藤又自動車のキャスティングがいい。大社長・東野英次郎、社長・進藤英太郎、部長・有島一郎、部長・犬塚弘、課長・人見明。邦画マニアなら務めたい布陣。文書課に配属されて宛名書きをするシーン植木さんの直筆です。屋上で「明るく元気にいきましょう」と歌って幸せに。

『日本一のゴマすり男』の段階では、スーパーサラリーマンの爽快な出世譚になっているので、当初の「無責任」概念は完全に払拭。でも植木さんのパワフルさ、常軌を逸した古澤演出で、僕らはこのエネルギッシュな植木さんを「無責任男」と位置付けてしまった。要領の良い男が魅力的に描かれているから。
映画が始まって27分目ぐらい、しょぼくれた「人生劇場」を歌い、トニー谷の「アベック歌合戦」の「あんたのお名前なんてぇの」から、紛然と決意した植木さん、いきなりドリーミングな「ゴマスリ行進曲」となる。七色のカクテル光線、噴水、白いスーツ、太平楽な踊り「ゴマすり行進曲」で僕らは昇天!
「ゴマすり行進曲」からの後半は、これぞ東宝サラリーマン映画の展開で、課長の釣り道楽、部長のゴルフ道楽に取り入って、結局部長の意中のマダム・久保菜穂子さんに急接近。ここからはジェームズ・ボンドもかくやの駆け引き作戦で、出世街道まっしぐら(笑)反骨・風刺ゼロの出世譚だけど滅法面白い。
後半、部長宅の引越しに植木さんの後輩学生がバイトとして登場。それが加藤茶さんなので、後年の観客にはビンテージ感を味わえる。ぼくが知る、もっとも古い、動くカトちゃんの映像。ここもポイントです。


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