『クレージー黄金作戦』(1967年・坪島孝)


ラジオ再放送聞いて、ラジオ生出演して、新聞連載の原稿書いて、もっと勉強しようと、観始めたのが『クレージー黄金作戦』(67年・坪島孝)。夕食中断を挟みますが、二時間半、しばし坪島ワールドに行きましょう! 大作なのにむしろスネークインで静かに始まる。「万葉集」を歌う町田心乱、サイコー!
後楽園から水道橋にかけての橋の上で、ヒロイン海野月子(浜美枝)との出会いのシーン。この辺りの光景はあまり変わらないな。無責任男の勢いはないけど、クレイジーの植木さんの、あのフワッと軽いお調子者のイメージ、悪くないよね。テレビのコントを見ているみたいで。
植木の「政治の貧困ですよ」のセリフを受けて、国会議事堂の代議士・板垣重金(ハナ肇)登場。ギャグがコントレベルなので古澤信者には物足りないが、ハリウッド喜劇が好きな坪島さんの丁寧な演出が、この映画の味。二時間半の長尺だけど、植木・ハナ・谷の三人を均等に描く「三人吉三」のセオリーだと、坪島監督。
ハナ「今に病院行きですよ」のセリフを受けて、医者・梨本金男(谷啓)登場。わがままな患者(塩沢とき)との揉め事は、小学生でもわかる、お約束の展開。漫画的というか、わかりやすい。谷啓さんイキイキしてるなぁ。そして看護師・園まりさんのさわやかなお色気(死語)
とにかく長尺なので、なかなか本題に入らない(笑)で、商社のサラリーマンになった植木さんがパチンコ屋でアンドリュー・ヒューズに貰ったラスベガスのホテルリビエラのカジノのチップを、蔵前の玩具屋に持ちかけて偽造する。その玩具工場がマルサン! 全特撮ファン必見のシーンが待ち構えている!
一方、糞尿処理施設で一儲けを企ててる代議士の板垣重金は歌舞伎座思しき劇場で、新聞記者の取材を受ける。そこにバキューム業者のドリフターズがデモにあらわれる。うんこチンチン前夜、ドリフの下ネタがビジュアルで展開される。1967年はドリフがいよいよブレイク寸前。その空気が伝わってくる。
またまた一方、金梨は、タクシーに轢かれた亜ンドリュー・ヒューズを助け、それが渡米のきっかけとなる。園まりさんが「何も云わないで」歌うシーン。後で谷さんがラブレターを渡そうとする一連の動き、「シャボン玉ホリデー」でよくあったパターン。
で、いよいよマルサン(もちろんセット)。生産ラインでは快獣ブースカを作っている。工場の親父は沢村いきをさん。事務所には「ガラモン」のプラモなどが置いてあって、なんか楽しい。
で、いよいよ、植木・ハナ・谷の渡米の段取りがそれぞれ取られる。本当は松田という社員がロス行きなのに、重役・有島一郎がなまって「マチダ」と言って「町田心乱」に決まる、一連の笑いは、実際に東宝社内であった話と、脚本の田波靖男さんから聞いた話。
で、いろいろあって、ようやく植木・ハナ・谷の三人がパンナム機内で出会う。映画が始まって53分もかかってる。SP映画なら終わってる時間。このゆったり感を味わうのが、この映画の楽しみ方。
「トリスを飲んでハワイへ行こう」の時代から東宝映画はハワイロケをしてきた。『ハワイの若大将』『社長外遊記』『ホノルル東京香港』『喜劇駅前音頭』などなど。で、いつもイライラするのは、ハナさんがチップで100ドル札を配りまくるところ(笑)
でもって若大将・加山雄三と植木さんの夢のコラボ。「二人だけの海」〜お呼びでない〜は、この映画の第一のハイライト。このシーン見たさに、浅草東宝のオールナイトに行ったもんだ!
ロサンゼルスで女子トイレに入って警察に捕まった板垣重金「もうアメリカなんかにな、基地なんて貸さないからな」と大激怒(笑)
同感です。

さ、食事を終えたので『クレージー黄金作戦』再開です。グレイハウンドのバスを降りて、これからラスベガスまで歩くところから・・・
ネバダの砂漠でロケしてるんだけど、この時代のことを考えると、いろいろ心配になてしまう。植木さん「やまのあなたの空遠く」と唸る。三遊亭円歌師匠のブームの時代。ああ、大作を見ているんだなぁ、という時間経過。ハリウッドでいうと『ハワイ』とか『栄光への脱出』みたいな時間が経過していく。
で、ようやく三人が意気投合してお互いを「坊主」「煎餅屋」「藪」とあだ名で呼び合うのが、映画が始まって1時間33分目。悠長だなぁ。そこへ犬塚弘さんのネイティブ・アメリカンが現れるが、基本的にこの頃は「ローンレンジャー」のトントのイメージ(笑)「インディアン嘘つかない」の・・・
荒凉たるネバダで谷啓さんが夢想するのは、園まりさんの幻影。このため、まりさんはわざわざロケに「連れてって」もらったそうです。ご本人から伺いました。このシーンのバリエーション「釣りバカ日誌イレブン」で沖縄で遭難した浜ちゃんがみち子さんの幻影を見るシーン(笑)しかし砂漠、ジョン・ウェインやマックイーンのこと考えると、心配だなぁ・・・
このあたりは、田波靖男さんによれば「珍道中シリーズ」の「モロッコへの路」を意識したとか。で、ようやくラスベガスに辿り着く。そこで最高のハイライト「ハロー、ラスベガス〜金だ、金だよ」となる。サンダーバード大通りと深大寺駐車場でロケ(笑)
このナンバーで無理やりこれまで様々な役で登場してきたクレイジーのメンバーが一堂に介してしまう。「こら、ここは日本じゃないんだぞ、ラスベガスなんだぞ、真面目にやれ!」の掛け声は、板垣重金なのかハナ肇なのか、もうどうでもいい感じになっていく。お話よりもラスベガスで馬鹿踊りのインパクト!
サンダーバード大通りを封鎖してのナンバーの撮影は、いろんな意味で画期的。敗戦国日本が経済成長した挙句、エコノミックアニマルに転じてゆく時代の象徴。この恥ずかしさ。この破廉恥さ! 昭和の元気をありがとう!なんて言ってる場合じゃないのよ。だけど、好きだけど(笑)
で続くホテル「リビエラショー」は、ザ・ピーナッツ、ジャッキー吉川とブルーコメッツ、ジャニーズ、シャンパース、スクールメイツが「ウナセラディ東京」を歌って踊る。これぞ、渡辺プロの海外進出イメージの完成!そして大御所クレイジーキャッツの音楽コントへ。演出は『自動車泥棒』の和田嘉訓監督。
そして無一文の三人が最後のチップで勝負をかける。さすがにホテル・リビエラで撮影はできなかったので東宝撮影所にカジノのセットを組んで撮影。この辺りは城跡だけど逆転、大儲けは気持ちがいい。ま、どういうことないシーンなんだけど、娯楽映画はこれだから楽しい。


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