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【書籍紹介】フロー体験 喜びの現象学

「本問自答」これは以前、ある方に教えてもらった言葉です。本を読むことで頭の中に問いが立ち、それに答えようとすることで内省が深まっていく…

今回はそんな問いが生まれる書籍の第一弾として「フロー体験 喜びの現象学」を紹介します。


本書の構成(目次)

第1章:幸福の再来
第2章:意識の分析
第3章:楽しさと生活の質
第4章:フローの条件
第5章:身体のフロー
第6章:思考のフロー
第7章:フローとしての仕事
第8章:孤独と人間関係の楽しさ
第9章:カオスへの対応
第10章:意味の構成

書籍より

ざっくり400字まとめ

ミハイ・チクセントミハイ氏による著書で、目的の一つは「日常の些細な事柄でさえ、最適経験(フロー)をもたらす個人的に意味のあるゲームに変換する方法を開発すること」だと書かれている。

フローとは、一つの活動に深く没入しているので、他の何ものも問題とならなくなる状態であり、その経験それ自体が非常に楽しいので、純粋にそれをするということのために多くの時間や労力を費やす状態。

人は現実に「外」で起こっていることとは無関係に、ただ意識の内容を変えるだけで自分を幸福にも惨めにもできる。つまり、「内的な経験」を統制できる人は自分の生活の質を決定することができるようになるということ。

このように、フロー(最適体験の理論)が私たちの生活にどのように影響を与えるかを理解し、習得することで、仕事や人生に対するコントロールを高め、全体的な幸福感を向上させる方法を様々な角度から詳しく探求している著者渾身の一冊。

学びメモ(本書より抜粋)

  • 注意は意識に何が現れて、何が現れないかを決定し、他の心理的事柄(あることを思い出すこと、考えること、感じること、決断すること)を生じさせるので、それを心理的エネルギーと考えると便利。注意は、それなくしては何の働きも生じず、働くことによって散逸するという意味でエネルギーに似ている。我々はこのエネルギーをどのように投射するかによって自分自身を作り上げていく。記憶、思考、感情のすべては、我々が注意をどのように使うかによって形作られる。(P42)

  • 情報が目標を脅かすことによって意識を混乱させる時、我々は常に内的無秩序の状態、つまり心理的エントロピーという自己の効率を害する自己の混乱を経験する。この経験が長引くと、それは注意を投射し目標を追求することができなくなるまでに自己を弱める。(P47)

  • 心理的エントロピーの反対が最適経験と呼ばれる状態。意識の中に入り続ける情報が目標と一致している時、心理的エネルギーは労せずに流れる。(P50)

  • 正さなければならない無秩序や防ぐべき自己への脅迫もないので、注意が自由に個人の目標達成のために投射されている状態。これをフロー体験という。その状態を達成している人は、より多くの心理的エネルギーを彼ら自身が選んだ追求目標にうまく投射してきたので、より強い自信のある自己を発達させている。(P51)

  • 楽しさの現象学の8つの主要構成要素(P62)

    1. その経験は達成できる見通しのある課題に取り組んでいる時に生じる

    2. 自分のしていることに集中できてなければならない

    3. 集中できるのは、行われている作業に明確な目標があるため

    4. 集中できるのは、直接的なフィードバックがあるから

    5. 意識から日々の生活の気苦労や欲求不満を取り除く、深いけれど無理のない没入状態で行為している

    6. 楽しい経験は自分の行為を統制しているという感覚を伴う

    7. 自己についての意識は消失するが、これに反してフロー体験の後では自己感覚はより強く現れる

    8. 時間の経過感覚が変わる

  • 自己目的的経験、すなわちフローは生活の流れを異なったレベルに引き上げる。疎外は参与に取って代わり、退屈は楽しさに、無為感は統制感に道を譲り、心理的エネルギーは外的目標への奉仕によって消費されることをやめ、自己についての感覚を強化するように働く。経験が内発的な報酬に満ちたものになる時、生活は将来の予想された利益のための抵当となることなく、現在によって正当化させるものとなる。(P82)

  • 最適経験とは、目標を志向し、ルールがあり、自分が適切に振る舞っているかどうかについての明確な手掛かりを与えてくれる行為システムの中で、現在立ち向かっている挑戦に自分の行為が適合している時に生じる感覚である。(P91)

  • フロー活動がなぜ人を成長と発見に導くのか。人は同じことを同じ水準で長期間楽しむことはできない。我々は退屈か不満を募らせ、再び楽しもうとする欲望が能力を進展させるか、その能力を用いる新たな挑戦の機会を見出すように自分を駆り立てるのである。(P96)

  • 注意の混乱や刺激への過剰関与は、心理的エネルギーがあまりにも流動的で不安定であるためにフローを妨害するが、過剰な自意識と自己中心主義は逆の理由、つまり注意が硬直し固定しているためにフローを妨げるのである。これらの両極端はいずれも注意の統制を許さない。これらの両極端に傾く人は楽しむことができず、ものを学ぶことが困難であり、自己の成長の機会を奪われる。(P108)

  • 多くの人々が退屈で反復的、また意味のないものと考えるような仕事も、強いられた仕事ではなく複雑な活動に変換できる人がいる。彼らは他の人々が認識しなかったところに挑戦の機会を認識することにより、そして能力を高め、当面する活動に注意を集中し、後に彼らの自己がより強く現れるまでに対象との相互作用に没入することによってこれを成し遂げるのである。このように変換されることによって仕事は楽しくなり、心理的エネルギーが没入されることによって仕事はあたかも自由に選び取られたもののように感じられるのである。(P189)

  • 経営ではまず生産性を最優先に考えなければならず、組合の指導者は安全や保障の維持を心掛けねばならない。短期的にはこれらの優先事項は、フローを生み出す条件との著しい不一致を生むだろう。これは残念なことである。なぜなら、もし仕事をする人が真に仕事を楽しむならば、仕事は労働者個人に利するだけでなく、遅かれ早かれ、彼らはより効率的に生産し、現在予定されている以上の目標をも達成することはほぼ確実だからである。(P192)

  • 「自己目的的な自己」とは、潜在的な脅威を楽しい挑戦へと変換し、したがって内的調和を維持する自己である。決して退屈せず、めったに不安に陥らず、現在進行しているものごとに関わりを持ち、そしてフローしている人は必ずと言っていいほど自己目的的な自己を持つ人と言えよう。この語は字義的には「自己充足的な目標を持つ自己」を意味し、このような人は自己の内側から生じる目標以外のものを比較的わずかしかもたない、という概念を表している。ほとんどの人の目標は直接的には生物学的欲求や社会的慣習によって形作られ、したがってそれらの起源は自己の外にある。自己目的的な人の基本的な目標は、意識によって評価された体験、したがって独自の自己から生じている。(P261)

  • 無秩序なことがらをフローに変換するには、可能性を伸ばし、自分を今以上のものにする能力を発達させなければならない。フローすることで人は創造性や目覚ましい成果を得られる。楽しさを維持するために能力を徐々に洗練していくことの必要性は、文化の進化を背後から支えているものでもある。それは個人と文化の双方を、より複雑な存在に変えるように動機づける。体感の中に秩序を作り出す喜びが、進化を推進するエネルギーを生む。それらはまもなく我々が席を譲る我々よりも複雑で賢明な、我々が漠然と想像する子孫のために道を整備しておくということである。(P266)

感想

通常の経験を生活や仕事の質を高める経験(そのものを楽しむ経験)に変えていくためのヒントが隠された一冊だと改めて感じました。

フローと言われる経験がどのように生じるのかも記載がありますが、「構造化された活動」と「個人の特性/能力」のその両方から生じるという記載があります。仮にフロー理論を仕事や組織に持ち込もうとしたときに、この観点を押さえておくと思考の補助線になるような気がします。

前者(構造化された活動)に関していうと、フローという概念はスポーツやゲームなどの経験として語られることも多いかと思います(ゾーンに入る等)。これはこれらの活動が最適経験を成就しやすいように設計されているからです。

能力の習得を必要とするルールがあり、明確な目標を設定し、フィードバックをもたらし、統制を加えることができる。これらにより日常とは様相を異なることで、注意集中と没入を強化するということです。

これは職場環境整備や業務設計でも取り入れられる要素ではないでしょうか?ゲーミフィケーションなどはまさにその代表的なアプローチかと思います。また環境整備や業務設計と記載しましたが、フローの構造を考えると、一度整備して設計したら終わりということではなく、その運用やアップデートが大事だとも言えます。

「人は同じことを同じ水準で長期間楽しむことはできない。」と上記学びメモとしても抜粋しましたが、これは逆に言えば、その欲望をうまく刺激するように運用していくことで、持続的な再現性あるフロー状態を作り出せるかもしれませんね。

後者(個人の特性/能力)に関しては、通常の体験をフロー体験に転換することは簡単なことではないが、ほとんどすべての人はその能力を向上させることができる、という言及があります。

ここでのポイントは「意識の統制」「心理的エネルギーの統制」であり、これができる人とできない人の差異がどこにあるのかがヒントになりそうです。その考察として、遺伝的障害を除いて大きな要因が、自意識の過剰や極端な自己中心主義であるとありました。

逆にどうすれば、自己目的的なパーソナリティを備えられるのかというのは私も未だ思考中ではありますが(書籍では家庭の影響についても触れられていましたが、会社組織での適用を考えた場合にどうすればよいのかという点)、「自己愛」から「外界への関心」への転換がポイントになりそうです。自己の内部に自己目的的パーソナリティを確立する方法として参考になりそうな一文を載せて、本noteの締めにしたいと思います。

「私は徐々に自分自身や自分の欠点に無関心になった。私はしだいに注意を世界の状態、さまざまな分野の知識、愛着を感じる人々など、外部の対象におくようになった。」


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