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「七草粥」の由来は?~1年の最初の節供「人日」とは~【歴史にみる年中行事の過ごし方】

旧暦1月1日は新暦の 1月下旬から2月中旬にあたり、冬の寒さも和らぎ、野山に若菜が芽吹き始める頃だった。

古代中国から伝来した1月7日に七種の若菜を食べる風習は、奈良時代から平安時代にかけて宮中行事となり、江戸時代に「五節供」の1つ「人日の節供」(七草の節供)として幕府の公式行事となった。

その後、「五節供」は明治5年(1872)12月の「明治の改暦」に伴い廃止されたものの、それぞれ旧暦の日付をそのまま新暦に引き継いで民間行事として残っている。今回は「人日の節供」の歴史を振り返りたい。

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「五節供」から「五節句」へ

江戸時代初期の元和2年(1616)といえば、大坂夏の陣で徳川家康が豊臣家を滅した翌年であり、その家康が駿府城で没した年にあたる。江戸幕府はこの年の制令などで、いわゆる「五節供」を正式な式日として定めた。

「五節供」とは1月7日の「人日(じんじつ)」、3月3日の「上巳(じょうし)」、5月5日の「端午(たんご)」、7月7日の「七夕(たなばた)」、9月9日の「重陽(ちょうよう)」という年中行事のことで、それぞれ一般に「七草の節供」「桃の節供」「菖蒲の節供」「七夕祭(または星祭)」「菊の節供」とも呼ばれる。

「五節供」は古代中国から伝わった「節日」をもとに、時代が下るにつれて整えられたもの。「節供」の「節」は季節の変わり目、「供」は神仏に供え物をするという意味で、本来は神仏に供え物を捧げて共同飲食する日だった。

江戸初期までは「節の日に供える」という趣旨で「節供」と記されたが、次第に「供え物をして祭りを行う句切りの日」という意味合いが強くなり、「節句」という字が当てられるようになった。幕末以降は両方の表記が併用されている。

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古代中国の「人日」と日本古来の「若菜摘み」

1月7日の「人日」は前漢時代の文人・東方朔の『占書』にみられるように、古代中国の風習に由来する。

古代中国では1日が鶏、2日が狗、3日が羊、4日が猪、5日が牛、6日が馬とそれぞれ獣畜を占う日で、その日にあたる動物は殺生しないこととしていた。これにつづく7日が人を占う日で、この日は人との争いは避け、犯罪者に対する処罰もしないことになっていたという。

また、中国最古の歳時記『荊楚歳時記』には「正月七日、人日と為し、七種菜を以って羹と為す」と記されており、この日は「七種菜羹」(ななしゅさいのかん/7種の菜が入った吸い物)を食して邪気を払い、無病息災を願った。

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この古代中国から伝来した風習と、日本古来の正月初子の日に若菜を摘み取る「若菜摘み」の風習が合わさり、平安時代、宮中では七種の若菜の「羮」(あつもの)を供する「供若菜(わかなをくうず)」という行事が執り行われた。

君がため 春の野にいでて 若菜摘む
 我が衣手に 雪は降りつつ

百人一首にも収められている、光孝天皇(第58代)の有名な和歌は「若菜摘み」の光景を詠ったもの。

また「供若菜」の様子は清少納言の『枕草子』にも記されている。同書では「七日の日の若菜を、六日人の持て来、さわぎ取り散らしなどするに――」と若菜の「羮」を食べるのは 7日で、その若菜を摘んだのは6日になっていた。

「七種菜羹」から「七草粥」へ

平安時代、宮中行事だった「若菜摘み」や「供若菜」が一般庶民に浸透していくうちに「七草」が定められていった。

ただし、若菜を「羹」として振る舞われていたのは鎌倉時代までで、室町時代初期には「粥」へと変化している。

江戸幕府の元和2年(1616)の記録には「七草」の由来を儒学者や陰陽師、僧侶などに調べさせたものの、わからないので古来のやり方のまま「粥」を供した、とも。

また「七草」の菜は諸説あるが、一般には「芹(せり)・薺(なずな)・御形(おぎょう)・繁縷(はこべら)・仏座(ほとけのざ)・菘(ずずな)・蘿蔔(すずしろ)」を指した。

そしてこれらを前日の夜か当日の朝に俎板にのせ、「歳徳神」のいる方角=恵方を向いて「七草なずな、唐土の鳥と日本の鳥と渡らぬ先に―云々」と唱えながら刻んだという。

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ちなみに「唐土の鳥」は鬼車鳥(きしゃどり)などと呼ばれる凶鳥のことで、この囃し歌には農作物に害をもたらす害鳥を追い払う儀式「鳥追い」の名残りがみられる。

明治5年(1872)12月の「明治の改暦」に伴い「五節供」の1つとしての「人日の節供」(七草の節供)は廃止されたが、その後も「七草粥」は行事食として残った。

1月7日は1年の無病息災を願いながら、「人日」らしく心穏やかに過ごしたい。(了)

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国立国会図書館デジタルコレクション

【主な参考文献】
・吉海直人著『古典歳時記』(KADOKAWA)
・河合敦監修『図解・江戸の四季と暮らし』(学習研究社)

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