Facebookからニュースが消えた!(オーストラリアで今起こっていること)
もし日本で、朝日新聞やNHKなどのメディアのフェイスブックページが突然全て「白紙」になってしまったら、皆さんは信じられるだろうか?
中国や北朝鮮ではありうるが日本ではあり得ないと思われるだろうか? あるいは、テロリストやハッカーの仕業であれば起こりうると思うだろうか?
オーストラリアではこのような事態が実際に、一夜にして起こった。
「ニュース」と判断される投稿が、Facebook上から全て消去されたのである。そして、それはハッカーの仕業ではなく、Facebookの正式な方針によるものだった。
「ニュース」にお金を払うべき?
事の発端は、オーストラリアの国会で議論されている "Media Bargaining Code" (メディア交渉権法)という法律だ。ニュースコンテンツがGoogleやFacebookなどの「プラットフォーム」において使われた場合、ニュースコンテンツの著作権を持つメディアは、「プラットフォーム」に対してその対価を支払うように交渉する事を可能にする、という法律である。
いわゆるコンテンツをつくっているのはメディア側(あるいはユーザー側)であり、プラットフォームはそれを掲載して広告費などで莫大な収益をあげている。それゆえにプラットフォームは、その広告費をメディア側に還元せよ(あるいは少なくとも、メディア側との交渉の席につけ)というのが、この新しい法律の意図するところだ。
情報やコンテンツがデジタル化したここ20年ほどのメディア業界の衰退は凄まじい。かつて新聞で言えば「求人広告」などで得ていた「広告費」収益がどんどん減っている。新聞やテレビの収益源となっていた巨額の「広告費」は、インターネットの巨大「プラットフォーマー」たちにすっかり流れていってしまった。
それにより、メディアは財源を失い「質の高い」コンテンツを作ることが難しくなった。さらに、未確認情報であっても誰でもSNSで流せるようになった現代において、私たちが日々ネット上で目にするニュースの信憑性やその質が大きな問題となっている。(これだけテクノロジーが発達したのに、コンテンツの質が落ちているというのは、なんと皮肉なことだろうか。)
Google は Yes、 FacebookはNo!
このオーストリア政府の「メディアを救う」試みに対して、Google (YouTube)とFacebookの対応は完全に分かれた。
Googleは、広告費で生み出される収益の一部をニュースコンテンツを提供するメディア側に分配する 「Google News Showcase」 という Revenue share (収益分配)の枠組みを立ち上げ、積極的にそのネットワークを広げている。
数日前には、オーストラリアでGoogleなどと長年対立関係にあったメディア王・ルパード・マードック氏率いるNews Corpをもこの枠組みに引き入れ、融和的な解決策を探っている。
つまり、GoogleはNews Corpに対して、「ニュースを表示させてもらう対価を払う」と約束したわけだ。
一方で、Facebookはメディアに対して敵対的な姿勢をとっており、それが今回のオーストラリアでの騒動に繋がった。
Facebookの言い分はこうだ。
「Facebookにニュースコンテンツのリンクを貼る場合、それを視聴するユーザーはリンクからメディアのサイトに誘導されるわけなので、メディア側はすでに利益を得ているはずだ。なぜ、Facebookがそれに対価を払う必要があるのか?」
また、Facebookユーザーの ニュースフィードに表示されるコンテンツのうち、「ニュース」コンテンツは全体の4%ほどにすぎないとFacebookは述べている。つまり、4%程度のコンテンツを取り除いても構わない、それによりメディアとの頭の痛い問題が解決するのであれば全て消去してしまおう、と判断したわけだ。
「ニュースとは何か」を巡る混乱
Facebookで突然ニュースが見られなくなったオーストラリアの人々は、オーストラリア公共放送ABCテレビのアプリのダウンロードに殺到した。このアプリは、一時的には世界で最もダウンロードされたアプリになったそうだ。
また、「ニュース」の定義が曖昧だったため、オーストラリアの政府機関が出しているコロナウイルスのワクチン接種に関する情報や、気象情報までもがFacebook上でブロックされ、人々を大混乱に陥れた。
さらに、「正規」のニュースが消去されたため、Facebook上に残る情報は未確認の「噂」や「Conspiracy theories (陰謀説)」の類の比率が増えてしまったという。大変、恐ろしい状況が生まれている。
もう一度いうが、これは中国や北朝鮮の話でもなく、軍事独裁政権の国で起こった話でもない。オーストラリアという民主主義国で現在起こっている話である。
この状況については、また機会のあるときにアップデートをしていきたいと思う。ジャーナリズムの未来、役割、資金源、ファクトチェック、Fake News 対策などについて、このブログでは今後も積極的にお話をしていきたい。
この件についてさらに詳しく知りたい方は、以下のハーバード大学ニーマン・ジャーナリズム研究所による記事にFacebookのこれまでの対応など詳しい情報が書いてあるので、ぜひ参考にしていただきたい。
(追記) 2月23日のFacebookの発表によると、現在ニュースコンテンツをFacebook上に戻す方向で、オーストラリア政府と協議をしているという。しかしながら、現時点でまだニュースは戻っておらず、Facebookメッセンジャー上ででオーストリア発のニュースのリンクをシェアすることも不可能な状態が続いている。
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