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800m 中距離選手が Max Sprint Speedを上げるには? 論文レビューその③

800m 中距離選手が Max Sprint Speedを上げるには? 

800mでは、レースのMax Sprint Speedを向上させることが一つ重要なキーファクターになってくるということを前回のNoteでは触れました。800mのレースは、200m毎、または400m毎ラップのタイムでスプリットタイムが表示されることがほとんです。それに伴って、800mの1周目のターゲットタイムが、Max Sprint Speedを考慮されずに普段の200mや400mの練習のタイムによって判断される傾向にあります。ですが、これの懸念材料として、800mのエリート選手の400mのシーズンベストとMax Speed Sprint の相関関係は有意ではなかったのです。400mのタイムを向上させることが必ずしもMSSを向上させるすなわち、レースのタイムを向上させるということではないのです。

中距離選手において理想の走りとは、いわゆるスムーズでリラックスされたという言葉が使われると思います。別の言葉で、ランニングエコノミーという言葉でも説明ができます。

※ランニングエコノミー・・・ある走速度をどれだけ少ない酸素摂取量(=エネルギー消費量)で走れるかを評価する指標

中距離選手は、時速19km/h (キロ3:10ペース)のペースだとマラソンなど長距離選手よりランニングエコノミーが高いとされています。実際に測定しての結果ではなく、想定してのことなので一概に結論づけるべきでもないとされています。

Trowellは、エリートレベルの1500mの選手間のランニングエコノミーの差異はないとも説明しています。800mや1500mの選手において、ランニングエコノミーがパフォーマンスの全てを説明するのであるとは言い切れないのです。

つまり、ランニングエコノミーをあげるのではなく、

ランニングエコノミーではなく、いかに効率的に少ないエネルギー消費でスピードをあげれるかが800mにおいては必要であるということです。

Mechanical Efficiencyとは?

高いスピードを少ないエネルギー消費で出すには、Mechanical Efficiencyの向上が言われています。Mechanical Efficiencyとは、直訳すると機械的な効率性です。滞空時間や接地時間などピッチやストライドを構築する要素です。

もう少し、”スピードを上げる”を細分化して、800m選手は疲労下においてストライドとピッチどちらが減少するのでしょうか。Bridgmanによると、スピードを出す時にピッチを向上させるより、ストライドを向上させるエネルギーコストは少ないといっています。Chapmanは、エリート選手は、高いスピードでの走行時にはピッチの向上に依存しているともいっております。

余談ですが、2017年ロンドンの世界陸上では男子5000mの Mo Farah(1位) や Joshua Cheptegei(2位)は、ベケレ(5000トレーニンと10000mの元世界記録保持者)は、レース終盤でも長いストライドは維持しつつも、ピッチをあげる能力が著しいとIAAF(世界陸連)は報告しています。

Maximalsprintspeedandtheanaerobicspeedreservedomainuntappedtoolsoftheworldsbest800mrunnersSandfordetal2018.pdf

以下、これらを踏まえて800mのレースにおいてタイムを向上するために考慮するべき項目です。

●スムーズにペースを切り替えるため
・エネルギーコストを最小化する - 最適なピッチとストライド -
・水平成分の力発揮
・姿勢 - 可動域、筋力の強さtoコーディネーション

●レースシナリオ
・疲労化(主観的な疲労感)の中でもパフォーマンス発揮能力
・競争下環境での技術発揮
・位置どり

●接地時
・短い接地時間
・高い脚スティフネス
・エネルギー出力の効率化

●滞空時
・長い接地時間
・脱力
・前傾姿勢

●その他
・トレーニングプラン
・技術の獲得

これら項目を考慮し、ASR(anaerobic Speed Reserve)を把握して、MSS(Max Sprint Speed)を向上させていくために必要なトレーニングをデザインしていくことが800m選手のパフォーマンスを考える上では重要ということになってきます。

Mechanical Efficiency(機械的効率性)を向上させること、つまりスピードをだすための最適なストライド長とピッチを把握し、それらをレースでも遂行できる能力を身につけることが大切なのです。

Mechanical Efficencyを向上させるため、ストレングストレーニングいわゆるウエイトトレーニング、プライオメトリクストレーニングなど、走る以外のトレーニングも踏まえて必須であるということもみてとれるかと思います。

※この考察はあくまで、和田が論文を熟読して至った個人的な意見も含まれているのでご参考までに。

TWOLAPS TC
和田俊明 (FIRST TRACK)

参考文献

https://www.researchgate.net/publication/328582286_Maximal_Sprint_Speed_and_the_Anaerobic_Speed_Reserve_Domain_The_Untapped_Tools_that_Differentiate_the_World%27s_Best_Male_800_m_Runners

Morin J-B, Edouard P, Samozino P. Technical ability of force application as a determinant factor of sprint performance. Med Sci Sport Exerc. 2011;43:1680–8.

Chapman RF, Laymon AS, Wilhite DP, McKenzie JM, Tan- ner DA, Stager JM. Ground contact time as an indicator of metabolic cost in elite distance runners. Med Sci Sports Exerc. 2012;44:917–25.

Morin J-B, Edouard P, Samozino P. Technical ability of force application as a determinant factor of sprint performance. Med Sci Sport Exerc. 2011;43:1680–8.

Hanley B. Preliminary analysis of London 2017 World Champi- onships men’s 10,000 m final. 2017. https://www.iaaf.org/news/ amp/press-release/technical-information-world-championships- lon. Accessed 3 Sept 2018.

Bridgman CF. Biomechanical evaluation of distance running dur- ing training and competition [Doctoral thesis]. Salford: University of Salford; 2015.


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