【800mはスピード?有酸素?】 論文レビュー⓵
この論文では、800mのパフォーマンスを考える上で、今まであまり触れられてこなかった一つのコンセプトが紹介されています。Anaerobic Speed Reserve(以下ASR)というコンセプトです。このASRというコンセプトを用いながら、800mのレースの勝敗がどのように起因してくるかが説明されています。いくつかの記事にわけて、この論文の考察をしていきます。
この説明だとイマイチピンとこないかもしれないので、グラフを用いて説明します。
※ vVO2max: 最大酸素摂取量(VO2max)に相当するランニング速度
同じvVO2maxのアスリート2人の比較。(上グラフ)
アスリートA: Max Sprint Speed 9.5 m/s (秒速9.5m)
アスリートB: Max Sprint Speed 10.0 m/s (秒速10.0m)
ここで、もう一度ASRを定義すると、最大速度と最大酸素摂取量時の走速度の差がASRです。要は、vVO2max以上の速度以上、すなわち、レースペース以上の速度の増減幅が、アスリートBの方が大きいということです。
言い換えれば、自分のだせるスピードの増減が大きいとい言い換えることもできます。
ここで2人の例に戻します。
同じvVO2max(最大酸素摂取量時速度)の2人でも、アスリートBの方が、MAX Sprint Speed が高いため、ASRも大きいということがわかります。では、スプリンターの方がASR大きくなるのではないの? そういった疑問を持たれるかもしれません。しかし、ASRは、MSS(最高速度)とvVO2MAX(最大酸素摂取量時の速度)のときの速度との差分なので、短距離種目になればなるほどMSS(最高速度)は高くなることは確かですが、800mの選手より、400mの選手がASRも大きくなるということはではなく、vVO2MAX(最大酸素摂取量時の速度)の数値もASRの数値に関係してくるのです。よって、vVO2MAX(最大酸素摂取量時の速度)は、持久的なトレーニングをしている選手の方が大きくなるために、結果的に持久的な種目の選手のASR が短距離選手より値が大きくなるのです。
ここでは、800mの似たようなvVO2Maxの数値の選手同士の比較で、MSS(最高速度)が高い選手がASRも大きくなるということを強調しています。このことを前提にした上で、中距離においてASRのキーファクターでもあるMSS(最高速度)を向上させることが、オリンピックや世界大会などで勝つには重要な要素であるということになります。(当たり前ですが…)
では、ASRが大きいとどのようにパフォーマンスに関わってくるのでしょうか??
800mなどの中距離種目は、無酸性走作業閾値以上のスピードでレースが展開されます。ASRが大きいアスリートBの方がレース中のスピードの変化に対応しやすく、ラストスパートで同じ位置にいた場合はアスリートBの方が勝つ傾向にあるということです。
※ここで気をつけなければならないのが、ASRが大きいから必ずいいパフォーマンスを発揮するかということではなく、レース展開や、その日のコンディション、ランニングエコノミー、メンタルなど他にも様々な要因と相互に影響しながらパフォーマンスは決定付けられていることを前提に考えなければならないということです。
ASRをトレーニングによって大きくすること、すなわちMSS(最高速度)を向上させることは、800mのパフォーマンスを考える上では一つ大きなKPIとなってくるのです。
次のNoteでは、ASRについてもう少し深く触れていきます。
TWOLAPS TC
和田俊明 (FIRST TRACK)
参考文献
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?