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0ゲートからの使者「24」

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魂の真意

次のレクチャーの日までは、冬の到来を感じる寒い日が続いた。
前日は関東で木枯らし一号が吹いたと天気予報で告げていたが、週末の今朝は晴れてまさに小春日和。

久しぶりにテラスとスーサに会えるので、玲衣は、いそいそと滝の音公園に出かけて行った。

鳥居のこちら側とあちら側ではいつものように空気が変わり、人の気配が消えた。
通いなれた低木の茂みを、腰を少しかがめながら進んでいくと、なじみの空間が現れ、小さな古い社が玲衣の到着を待ちわびるかのようにぽつんと佇んでいた。



社の前に立つと、ギギギと音を立てながら自動ドアのように扉が開いた。
白い光に包まれた室内の中央に置かれたあのキノコテーブルで、テラスとスーサがにこにこと玲衣を待っていた。
いつもながら美しい姉弟で、輝くようなオーラを放っていた。

 
「インとヤンから聞いたわ、玲衣は数秘のリーディングをしたのね。ご感想はいかが」

テラスに切り出され、玲衣は堰を切ったように心の内を語りだした。


人にはそれぞれ深いテーマがあると知ったこと、この人はこんな人だろうと自分勝手に決めつけてしまっていたこと、数字を通じてその人をより深く理解できたことなどを、ときに涙をこらえながら。
 
「数秘を知らなければ、私は瀬田さんのことは、ただうるさい目の上のたんこぶ先輩としか思えなかった。チカちゃんのことも、恋愛のことしか頭にない、やる気がないふわついた後輩と。彼らの持っている数を通して二人をより理解できた気がする」

スーサが目を細めながらうなずく。
「よい体験をしましたね、玲衣」

玲衣はそのひとことに心が温められた。
まるでインみたいだわ、と思った。
テラスもめずらしく毒舌を封印し、微笑んでくれていた。

 
「そう言えば、チカちゃんの数秘も瀬田さんの数秘もなんだか完璧な配合って気がしたわ。数同士が絶妙にバランスされ合っているというのかしら。どれが良くて悪くてとかではなく、なんだかその配合で完成、完全、完璧、って思えたの」

「そう、その人物の今生のテーマとしておのおのの数は完成されているのよ、何一つ多くもなければ少なくもない」

「やっぱり完成されているのか。自分のことは正直よくわからないけど、あの二人の数秘チャートを見てそう感じたわ」

玲衣は自分の感じたことがテラスに肯定されたことで安堵した。
 
「人生を通じてただ一つの数が、その人物や道のりを絶対的に支配するということはごく稀よ。他の数が複雑に影響しあっているのを立体的にどう読み解いていくかが肝心ね。前にも言ったけれど、ひとつの数字でその人物の人生を語るのは平面的すぎる」

「ええ、それはわかった気がする。だってチカちゃんも瀬田さんも、あれ?意外、と思える数を持ち合わせていたけれど、ちゃんとその数のエネルギーが意味を持っていたみたい」
 

しばらく間が空いた後、スーサが厳かにつぶやいた。
「ひとりひとりの魂の計画書は美しく尊いものです」

「魂の計画書……」

スーサの言葉を繰り返しながら、瀬田さんを気の毒に思ったら彼女の人生をリスペクトしないことになると気づいたことを思いだした。
 
「今生に生まれる魂は、どんな時代にどんな環境のもとに生まれ、誰と出会い、別れ、どんな暮らしをし、何を学ぶか、何を得るか、何を果たそうか、それぞれに大枠を決めてきているのです。人生のシナリオです。地上の人が思う良い出来事だけではなく、おそらくなんでこんなことがと慟哭するようなこともあるかもしれませんが、魂レベルでは起きてくることすべては自分の欲した筋書きに、ほぼほぼ沿っているものです」

このどんくさい自分の性格も、彼と出会ってあんな形で別れてしまうことも、すべて魂の計画だったということなのか。
大きな災害や事故や病で命を失くすことも果たしてそうなのだろうか。
玲衣には認めたくないような、どうとらえたらいいのだろうかという複雑な気持ちが沸き起こってきた。

 
「ただし、あくまでも大枠のシナリオで、どう生きるかは私たちの自由意志によります」

テラスが口を開いた。
「何を思うかは自由よ。そして私たちにはこれが正解ということも言えないわ。だってパラレルワールドは無数にあるから。選んだ世界、選ばなかった世界、思った世界、思わなかった世界……」

「うーん?」

困り顔の玲衣に微笑みながら、テラスが優しく言った。
「あれこれ言ってしまったけれど、要は目の前のことをたんたんと味わいながらこなしていけばそれでいいのよ、それしかないとも言えるわね」

「味わいながら……」
 
よくわからないけど、自分の決めたシナリオに不服を感じたらどうしたらいいのかしらと考えている玲衣の心を読み取ったのだろうか、
「たとえ自分のことは信じられなくとも、自分の内側の魂の真意を信じましょう」と、スーサが柔らかく諭した。
 

白い光の下で双子はきらきら内側から光を発しているように見え、玲衣は思わず目をしばたいた。


 

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