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0ゲートからの使者「38」

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第6章 0ゲート


魂の記憶

三寒四温とは言うものの、3月に入り寒い日々が続いている。その夜は凍てつく空に満月が冴え冴えと浮かんでいた。

玲衣は今、深い眠りの中にいて、ある夢を見ていた。
 
待合室と思しき白い部屋の一角に何人かの人が腰かけている。自分もその中で何かを待っていた。
ある契約に基づいて何かを一緒に果たすグループらしかったが、そこにいる人たちはまるでホログラムのようだった。
ひとり、ふたりと呼ばれては、ガイドとおぼしき人物と共に部屋を出ていく。
 
玲衣の番が来た。
迎えに来たガイドは、フード付きの白く長いローブを身に付けた中性的な、背の高い美しい人だった。
ガイドに伴われ、玲衣は白い廊下を進み、ある部屋に入った。

部屋はどこもかしこも色がなくただ真っ白で、中央にATMのような機械がぽつんと置かれていた。

ガイドは、玲衣をその前にいざなうと、その機械の上部に並んだボタンの説明を始めた。
10個のボタンのそれぞれには、0から9までの数字らしき記号が記されていた。各記号に意味があるようだった。

 
そのうちに玲衣は、自分は受肉する前の、魂の存在であることに気がつく。自分の手も指先も半透明だった。

ガイドからガイダンスを受けながら、どの時代のどこに生まれ、どんな体験をしていくのか、果たすべき目的は何なのか、今回の人生のテーマと照らし合わせながら選ぶ数字とその順番を決めていった。

それぞれの魂にはひとりずつ終生のガイドがつくようだ。転生のたび、お世話になっていく案内役らしい。
したがって、ガイドは玲衣のことを誰よりもよく把握していた。

 
そしてボタンを押していく。

……1、9、8、……

7個めの、最後のボタンを押そうとしたときに電撃が走った。
 
「えっ、これって私の誕生日じゃないの!?」
 

夢の中で玲衣は叫んだ。そして気づいた。
これは夢じゃなくて過去の記憶?
生まれる前の、胎内記憶よりももっと前の……
 
玲衣は振り返って背後のガイドを見る。さっきはフードに隠れ表情もおぼろげだったが、いまその顔を見た玲衣は思わず声を上げた。
 
「スーサ! あなただったの!」


 
玲衣は暗闇の中でがばっと身を起こした。
カーテンの隙間から差し込んできた満月の光が掛布団の上に長く伸びている。
スーサの額にあるムーンストーンが胸中をかすめた。心臓が早鐘のようだった。

スーサに感じていた妙な懐かしさは、遥か時空を超えたつながりであったことを玲衣はいまはっきりと思い出した。

様々な記憶が蘇ってきた。
どの転生のときにおいても、玲衣はスーサと共にあったのをおぼろげながら途切れ途切れに思い出した。
 
過去だけでない……
未来でも一緒だった?
 
そんな直感がしたものの、未来の記憶は霧の中にその姿を隠していた。
思い出そうとすると、なぜかますます深い霧に覆われてしまう。
まるで未来が、その片鱗をも見いだされるのを固く拒んでいるかのようだった。

カーテンを開けると、南西の空の高いところに満月が煌々と輝いていた。玲衣はいつまでも月を見上げていた。
 
 

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