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【英国LLM留学】修士論文を書き上げるまで#2

こんにちは。
お読みいただきありがとうございます。

ぼくは、イギリスに留学中の弁護士です。2023年にキングス・カレッジ・ロンドン(KCL)のロースクール(LLM)を修了し、現在は、ロンドンの法律事務所に出向中です。

前回に引き続いて、修士論文(dissertation)について書きます。
この前の記事はこちら。

KCLに入学するに当たって、修士論文のトピックを決めるところまで書きました。今回は、より具体的に、ぼくが修士論文の主張(thesis)を決めるまでを振り返りたいと思います。


2022年9月末:修士論文の履修登録

前回書いたとおり、KCLでは、修士論文を10,000 Word(45単位)とするのか、15,000 Word(60単位)とするのかを選びます。そのため、入学直後に行う履修登録で、どちらにするのかを選ぶことになります。

なお、KCLでは、修士論文ではなく、リサーチプロジェクトというモジュールもあります。修士論文は自分がトピックを決める一方で、このリサーチプロジェクトは、教授がお題を出して、そのリサーチを10,000/15,000 Wordにまとめるものです。特に自分で書きたいものが思い浮かばない(又は考えるのが面倒)のであれば、リサーチプロジェクトを選ぶのも良いと思います。

ぼくは、10,000 Wordの方を選びました。これも以前書いたとおりですね。

2022年12月5日:指導担当教授と修士論文の仮タイトルの決定

KCLでは、修理論文の提出までにいくつかのマイルストーンが設定されており、12月初旬に第1回目のマイルストーンがやってきます。

第1回目マイルストーンは、意中の教授に、指導担当となってもらう約束を取り付けた上で、その教授から修士論文の仮タイトルの承認を受けることです。

大学によっては、執筆予定のトピックなり法分野を提出して、指導担当は学生課などで割り振るため学生が指導教授を選べないところもあるようですが、KCLでは、学生自ら師事したい教授にコンタクトを取り、承認を得なければなりません。

修士論文を選択した学生には、KCLのロースクールに所属する教授の一覧がその専門分野とともに、エクセルで配布されました。

意中の教授から指導担当の約束を取り付けるには、仮タイトルの決定が前提となると思います。というのも、教授への依頼の仕方として、「○○について修士論文を書きたいので、××に知見をお持ち貴方に指導をお願いしたい」という内容になるはずであり、この○○をまず決めなければいけません。

もちろん、仮タイトルであり、後から変更可能ですし、もしかしたら、内容自体もガラッと変わるかもしれません。実際、ぼくの友人の中には、Cookie規制から捜査機関による個人データの利用にトピックを変更した友人もいます。とはいえ、変更の場合は指導担当の承認が要るでしょうし、何より時間のロスです。

そのため、上記の2022年12月5日までに、仮タイトルを決定する必要がありました。そして、仮タイトルを定めるに当たっては、以下で述べるように、修士論文の主張(thesis)を固めておかなければなりません。

少し時を戻って、振り返ります。

2022年10月以降:修士論文の主張(thesis)を構想する

Thesisとは、筆者が論文において主張したいことを言うものだと理解しています(*1)。これが無い文章は論文になり得ず、修士論文のコアとも呼べる部分だと思います。

ぼくは、「イギリスと日本における規制のサンドボックスの比較」をトピックに選びましたが、これは研究の分野ないしは手法に過ぎず、ぼくが主張したいことではありません。したがって、thesisとは呼べません。

ぼくは、日本における規制のサンドボックスの利用が進んでいない理由を論じたくて、修士論文を書くわけです。そうだとすれば、thesisは、「日本における規制のサンドボックスの利用が進んでいないのは、イギリスと比べて、〇〇だからである。」とするのが最もシンプルです。

では、なぜ日本における規制のサンドボックスの利用は、イギリスに比べて極めて低調なのでしょうか。仮タイトルを定めるにあたり、調べてみることにしました。

日本における規制のサンドボックスの実施体制に驚愕する

前回書いたので詳しくは省略しますが、イギリスにおいて、規制のサンドボックスとは、「特定の関連する規制の一時的な適用除外の恩恵を受けつつ、実際の市場環境で商品やサービスをテストすることを可能にする法的枠組み」と考えられています。規制のしがらみを一時的に取っ払う一方で、当局(FInancial Concuct Authority (FCA))がテストの実施状況をモニタリングすることで、消費者の保護を確保する規制手法です。

この画期的な規制手法(*2)は、なぜ日本で積極的に利用されていないでしょうか。ぼくは、手始めに、内閣府が発行しているこちらの資料を読み始めました。

※ 画像からもPDFのリンクに飛べます。
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/s-portal/pdf/underlyinglaw/sandboximage516.pdf

ここでぼくは、予想外の記載を目にします。

7頁目 - 赤枠はぼくによるものです。

赤枠で囲んだとおり、日本では、原則として、既存の規制法令に違反している場合には、規制のサンドボックスの利用が認められません

さきほど書いたとおり、イギリスにおける規制のサンドボックスにおいて、規制法令の適用の一時的な免除は、本質的な要素です。なぜなら、多くの事業者が規制のサンドボックスを利用するのは、許認可の未取得等を理由として、製品テストを行うことが規制法令の違反を構成するからです。

他方で、日本における規制のサンドボックスでは、規制法令に違反していないことが、原則として、利用の前提条件となっています。言い換えれば、事業者は、規制のサンドボックスを使用せずとも、市場テストが可能です。このような事情の下で、果たしてどれだけの事業者が、申請に要する事務コストを負担して規制のサンドボックスに参加しようとするのでしょうか。

ぼくは、直感的に、日本において規制のサンドボックスの利用が進んでいない理由は、ここにあると思いました。つまり、ぼくの修士論文におけるthesisは、次のような形でいけるのではないかと思ったのです。

Thesis(仮):
日本において規制のサンドボックスの利用が進んでいないのは、イギリスと異なり、テストの実施が既存の規制法令に違反する場合には、制度の利用が認められないからである。

これは日本の制度の致命的な弱点であるように思えたため、文献を調べてみたところ、似たような批判を加えているものが見つかりました(*2)。

これは、自分の感覚が大きく外れていないことだろうと考え、上記のthesisをベースとして、修士論文を書こうと決めました。マイルストーン①として、提出の必要があった仮タイトルについても、上記のthesisを念頭に置いたものを付けました。

2022年11月中旬:教授にコンタクトを取って約束を取り付ける

KCLのロースクールでは、いくつかの専門コースを提供しており、ぼくは、Law &Technology Pathwayに所属していました。このPathwayを担当するRelong Lu教授が、とある論文の中で規制のサンドボックスに触れていたため、出願時のパーソナルステートメントにも、Lu教授の指導を受けたいと書いていました。

Lu教授は、Term 1で「Law and Policy of FInancial Technologies」という授業を担当されており、ぼくも履修していました。ちょっと退屈な授業であったものの、穏やかで優しそうな人であり、パーソナルステートメントに書いたときからの心変わりもなかったので、修士論文の指導担当になってもらおうと決めました。

そこで、上記のthesisを念頭において修士論文の作成のイメージをまとめた上でメールを送り、指導担当となって頂けないかお願いしたところ、快く引き受けてくださいました。

こうして、ぼくの修士論文の仮タイトル(及びthesisの骨子)と指導担当教授が決まることとなります。

小括

修士論文は、ロースクールの勉強の中でも力を注いだ科目だったので、つい長くなってしまいました。あと2回ぐらいで終わるはずです。

次回は、ぼくが修士論文の研究計画書について書きたいと思います。

このエントリーがどなたかのお役に立てば、嬉しいです。
お読みいただきありがとうございました。

追記:次回はこちら


【注釈】
*1 一応、"thesis"には「主張」という訳を当てていますが、ぼくは英語でしか修士論文の書き方を教わったことが無いので、この訳で果たして正しいのか分かりません。もし、相違あればご遠慮なくお知らせください!
*2 AMTが大阪府の委託を受けて行った調査の報告書で、リンクはこちらです。


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