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【英国法】イギリスの離婚制度

こんにちは。
お読みいただきありがとうございます。

※ いつも使っているTop画が使えなくなってしまったので、別の素材を見繕いましたが、いつもと同じシリーズです。

本日は、イギリスの離婚制度について書きたいと思います。

初めに断っておくと、今回は、離婚それ自体と財産分与関連の話にフォーカスしています。子供に関する問題も、離婚における重要事項の一つであるではあるものの、今回は触れていませんので、ご容赦ください。

なお、法律事務所のニューズレターとは異なり、分かりやすさを重視して、正確性を犠牲にしているところがありますので、ご了承ください。


イギリスの離婚制度の歴史

19世紀中頃以前

イギリス国教会が、16世紀のヘンリー8世の離婚問題に関連して、カトリック教会から分離してできた教会であることは有名ですよね。実は、19世紀中頃までは、離婚に関する裁判手続は存在せず、国教会が離縁状を発行していました。

再婚をするためには、議会の措置法(*1)により離婚することが必要になるというハードルの高さで、しかも、基本的に、男性にしかそのような措置法による離婚は認められませんでした。

Divorce and Matrimonial Causes Act 1857

1857年に制定されたこの法律は、世俗の裁判所に、離婚についての管轄権を与えるものです。

この法律で認められていた離婚事由は、不貞のみでした。夫から妻に対して離婚を請求するには、妻の不貞が要件となり、妻から夫に対して離婚を請求するには、夫の近親相姦又は一定の不貞が要件となっていました。

Matrimonial Causes Act 1973

20世に入ると、イギリス社会の家族生活の実情とキリスト教のイデオロギーの影響を強く受けた離婚法の乖離が大きくなり、離婚制度の改革が迫られることになります。

いくつかの漸進的な法律制定を経て、Divorce Reform Act 1969が制定されます。この法律は、その後、Matrimonial Causes Act 1973(MCA 1973)に統合されます。MCA 1973は、離婚事由を、次の5つのいずれかに基づく「婚姻関係の修復不可能な破綻」と定めました。

① 相手方の不貞行為
② 同居が合理的に期待できない相手方の行為
③ 2年間継続して、相手方から過程を顧みられない状態に置かれたこと
④ 2年間の別居と相手方が離婚に同意していること
⑤ 5年間の別居

旧法は、現代のぼくたちの感覚からするとかなり前時代的でしたが、そのころから前進したことが伺えますね。なお、もう一つの重要な要件として、結婚から1年間は、離婚の申立てができないというものがあります。

現在:Divorce, Dissolution and Separation Act 2020

2020年6月に制定されたDivorce, Dissolution and Separation Act 2020(DDSA 2020)は、MCA 1973に大幅な変更を加えるものです。2022年4月6日以降の離婚については、DDSA 2020の要件にしたがうことになります。

DDSA 2020は、MCA 1973が定めていた5つのいずれかの事由の存在の必要性を廃しました。どういうことかというと、DDSA 2020では、極めて限定的な状況を除いて、離婚手続の申立人が離婚を望んているときは、たとえ相手方が望まなくとも、裁判所の離婚の命令を得ることが可能となりました。

離婚の要件

ここまではイギリスの離婚の歴史を振り返りつつ要件を紹介してきたので、少し分かりづらかったかもしれません。改めて、現時点におけるイギリスにおける離婚の要件について、以下のとおり整理します。

イギリスにおける離婚:
① 日本にいう協議離婚はなく、裁判所の手続のみにより離婚できる。
② 婚姻後1年間は離婚手続を開始できない。
③ 相手方が望んでいなくても、裁判所の離婚命令を得られる。

なお、詳しくは立ち入りませんが、少しだけ手続について触れます。

申立人は、離婚手続の申立てから(原則として)20週間の経過後、裁判所に条件付き命令を申請することができます。その後、裁判所が条件付き命令を発し、その6週間後に最終命令の申請が可能となります。

当事者は、条件付命令後、最終命令までの間に、財産分与や子供の取扱いについて協議を行うことが想定されています。

離婚時の財産分与

合意or裁判手続

イギリスにおいても、離婚時の財産分与については、当事者間での合意で取り決めるか、裁判所の判断で決定されるかという2つのルートが基本です(他には仲裁もあり得ます)。

ただ、当事者が合意して離婚後の財産関係について取り決めたとしても、英国法の下では、その合意に執行力はありません。この場合であっても、裁判所に対して、当該合意に基づく命令を申し立てる必要があるため、いずれにしても裁判所の関与が必要となります。

なお、裁判所は、当事者が合意した財産分与の内容が不公正と考えるときは、命令を拒否することができます。また、裁判所が命令を出せるのは、MCA 1973に定める範囲に限定されます。そのため、イギリスにおける離婚時の財産分与について考える際には、まず、裁判所の権限を確認することが有益です。

裁判所の権限

MCA 1973のPart IIによれば、離婚時の財産分与に係る命令に関する裁判所の権限は次のとおりです。

裁判所が離婚時に財産分与に関して出せる命令:
① 一括又は分割での金銭の支払い
② 一方当事者の他方当事者に対する定期金の給付
③ 子どもの利益のための定期金の給付(*2)
④ 財産の所有権の移転
⑤ 財産の売却とその分配
⑥ 一方当事者の財産について他方当事者や子供を受益者とする信託を設定すること
⑦ 年金の分割
⑧ 婚前契約の変更 

この中で、日本の離婚制度と明確に異なるのは、②一方当事者の他方当事者に対する定期金の給付です。なんと、終身の定期金給付を命令することも可能であり、そのような命令も珍しくないとのことです。

夫婦間での財産の分割割合

英国でも、婚姻期間中に形成された「夫婦の財産」というものを観念して、これを夫婦それぞれの貢献に応じて分割するという方針が取られます。

もっとも、目に見える金銭的な貢献でいえば、夫婦間で顕著な差があることがほとんどです。たとえ共働きであっても、妻が子育てや家事を多く担当する一方で、夫がその分働いてお金を稼ぐという傾向は、世界的に共通しています。その中で夫婦の財産の分割割合をどう考えるかというのは、各国で色々な立場があるようです。

日本は、ご存じのとおり、夫:妻=50:50をかなり厳格に維持する国であり、それと違う割合での分割の審判を得ようと思うと、相当に骨が折れる仕事になります。

イギリスでは、日本ほど厳格ではないとはいえ、ほぼすべてのケースで一方当事者の得る割合が66.6%~33.3%に収まると言われています。個人主義の色合いの強いイギリス社会のことを考えると少し意外かもしれません。

イギリスでの離婚は大人気

ちょっと不穏な見出しですね。ここまで述べたとおり、イギリスでは、離婚後も相手方から終身の定期金の給付を得られる可能性があったり、相手方との経済格差があっても夫婦の財産の分割が比較的平等な割合で行われることから、経済的に弱い立場にある当事者にとって、魅力的な離婚制度を備えていると言えます。

イギリスは日本と比べて周辺諸国との地理的、経済的結びつきが強いこともあり、国際結婚の件数も多く、そうなると国際離婚の件数も増えます。

例えば、フランス人の妻とオランダ人の夫がイギリスで暮らしているということも決して珍しくなく、この夫婦が離婚する場合、フランス、オランダ又はイギリスのいずれの国で離婚手続を行うのかは、(各国の裁判所に管轄が認められることを前提にすれば)基本的にその夫婦の自由です。

そうなると、フランス人の妻は、離婚時の財産分与を自身に有利に進めるために、イギリスで離婚手続を開始するかも知れません。

イギリスの裁判所は、伝統的に、裁判管轄が競合する案件であってもウェルカムで審理をするので、実際にはイギリスとほとんど関係のない離婚事件が係属することもしばしば起こるようです。

このような離婚手続地のフォーラムショッピングにおける人気から、一部ではイギリスは、「離婚の首都」と呼ばれています(*3)。

おわりに

いかがだったでしょうか。
本日は、イギリスの離婚制度について紹介しました。

余裕があれば、国際離婚に関しても触れたいと思ったのですが、そうなるとボリュームが膨大になってしまうことに気づいたので、また別の機会に書きたいと思います。

ここまで読んで頂きありがとうございました。
この記事がどなたかのお役に立てば、嬉しいです。


【注釈】
*1 正確には、Private Act of Parliamentです。個別具体的な事象について適用することを目的とした議会法であり、措置法と訳するのが近いかなと思い、そうしています。
*2 養育費については、別途法令の定めがあります。ここでは、そうではない支払いを意味します。
*3 Ruth Lamont, ’Family Law(2nd Edn)’ (2021 OUP), 569頁


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