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【英国LLM留学】Fail(不可)を取った話#2

こんにちは。
お読みいただきありがとうございます。

ぼくは、2023年にキングス・カレッジ・ロンドン(KCL)のロースクールを修了しました(LL.M.)。

以前、とある科目を落としてしまったエピソードを書きました。

前回の話は、要するに、体調を崩したせいでエッセイが提出できなかったというものでした。もちろん体調管理には気を付けるべきですが、正直言って仕方なかった面もあったと思っています。

今回は、打って変わって、ガチの失敗談です。

23‐24年度でイギリスの大学院に通われている方は、定期試験が終わって少し経った頃かと思います。もしかしたら、あんまりテストが振るわず落ち込まれている方もいるかもしれません。そんな方は、この記事を読んで、もっと酷いやつが過去にいたという事実で心を落ち着かせてください。

では、始めます。


落とした科目その②:国際商事仲裁

ぼくは、KCLのロースクールの入学時に、Law and Technologyというコースを選択しました。そのため、この国際商事仲裁(International Commercial Arbitration)のモジュールは、コース内容から少し外れるものでした。

なぜ履修したのか?

ぼくは、弁護士になる前の法務部員時代、プラントエンジニアリングの業界で働いており、仕事の80%は資源メジャーを発注者とするエネルギープラントの建設プロジェクトでした。そのため、国際仲裁は割と身近な存在で、当時のぼくにとっては渉外弁護士=国際仲裁の代理人でした。

ぼくの中でそのイメージがずっと頭の片隅に残っており、KCLでモジュールを選択するときも、「渉外弁護士を名乗るなら、国際仲裁のイロハは分かっていないダメだろう」という考えから、国際商事仲裁の履修を決めました。

国際商事仲裁は、Term 1(9月~12月)に開講されたモジュールであり、翌1月初旬の自宅でのオープンブックテスト(ネットや資料の参照可)の評価100%で成績が決まる科目でした。

、、ここから言い訳を始めます(笑)

定期テストと英国弁護士試験のスケジュールが重なる

ぼくは、イギリス留学中に、SQEと呼ばれる英国弁護士試験をパスして、英国弁護士の資格を取得することを予定していました。そして、ロースクールの授業が2022年9月末に始まったのとほぼ同じタイミングで、SQEの勉強を開始したのですが、SQEの1次試験が、2023年1月下旬にあるため、Term 1のテストと時期が重なってしまったのです。

そもそも、SQEの1次試験は、イギリスの非法学部生や、非コモンロー法域の者が受験する場合、6~8か月の学習期間が必要とされているところ、ぼくは、あろうことか3か月の学習期間で乗り切ろうとしていました。今思うと無茶もいいところです。そのせいで、全然SQEの範囲が終わらず、Term 1の授業と定期試験の勉強を削りまくってしまいました。

そのあおりを最も強く受けたのでが国際商事仲裁でした。というのも、テストが自宅でのープンブック形式ということもあり、復習による暗記がそこまで不要だったことに加えて、教授の授業も分かりやすくフレンドリーだったので、油断していたのだと思います。そもそも、法務部時代に国際商事仲裁の話をかじっていたこともあり、今思うと、他の科目よりも予備知識があったことも、ぼくの油断を増長させる要因でした。

どんどん後回しになっていくテスト勉強

12月末になっても学習範囲が全然終わらないSQEの勉強、他の科目のテスト勉強、複数の5000 wordのエッセイ、、という風にTo Doが増えていき、国際仲裁のテスト勉強になかなか手が回りません。

特に、エッセイ作成に要する時間を甘く見ていました。もともとは5000 Wordであれば、1件あたり2日あれば書けるだろうと思っていましたが、全然そんなことはなかったです。エッセイ作成にはいくらでも時間を費やせてしまえるため、変なこだわりが災いして、ギリギリまで取り組んでしまいました。

そして、テスト当日

国際商事仲裁の試験は、1月9日12時~20時まで実施されました。12時になるとポータルに問題がアップロードされ、20時までに回答をポータルに提出する形式です。

実はこの日の15時に、2件のエッセイの提出期限があり、ぼくは、試験時間が始まってもまだエッセイを書いていました。書き終わったのは、12時30分。昨夜から寝ずに作業をしていたので、シャワーを浴びて30分だけ寝て、昼食を食べました。

ぼくが、国際商事仲裁のテストに取り組むために机の前に座ったのは、13時過ぎのことでした。ここまで読んで予想されたかもしれませんが、ぼくは、まったく勉強をすることが出来ずに、このテストに臨みました。

いざ経緯を書きだしてみて思ったのですが、「ノー勉だったので赤点を取りました」と言うだけで、これだけ言い訳が書けるのですね(笑)

異様にハイレベルな問題

ぼくは、テスト問題を読んで愕然としました。

めっちゃ難しいのです。

8時間(実際はシャワーと昼食をはさんだので7時間)のオープンブックであれば、指定の教科書にレジュメ、それとPractical LawとLexis Nexisがあれば何とか乗り切れるだろうと高を括っていたぼくは半泣きになりました。

問題が5つ出されて、そのうち3つについて回答する形式でした。字数制限は無しです。

かろうじて答えられそうな問題が一問だけあったのでこれをババっと書いて、残り二問について、教科書を読み始めます。しかし、教科書には基本的なことしか書いておらず、回答の参考になるような深い考察は書かれていません。レジュメやぼくのノートを見返しても同様です。

あっという間に時計の針は19時30分を回り、ぼくの手は、キーボードの前で動かないまま震えています。英語の見直しをする時間を考慮すると、これ以上、回答を作成することはできないと判断しました。

結局、3問中、1問完投、1問は途中回答、もう1問は4, 5行だけしか書けていない状況でポータルに提出することになりました。徹夜明けだったこともあり、そのままゾンビのようにベッドに入って眠ったことを覚えています。

試験結果(第1回)

テストの結果発表は、4月上旬ごろにあったと思います。
ぼくの成績はこうでした。

40点(Fail)

この点数がどれだけヤバいか、ご説明します。
以前、KCLのロースクールの成績分布をご紹介したことがありました。そのときに掲載した表がこちらです。

この表の「I」のモジュールが、実は国際商事仲裁です。
最低点の欄に、「40」という記載があると思います。これを取ったのはぼくです(正確には同点最下位の人がもう一人)。

不可と取ってしまったらどうなるのか?

前回にも書いたとおり、KCLの大学院では、一度試験を落としてしまった場合に、別のTermで異なる科目の単位を取って補充するというシステムにはなっていません。そのかわり、落とした科目については、KCLの学則に従い、1回だけ再試のチャンスが与えられます。

前回ぼくが落とした科目として紹介した経済規制と金融犯罪は、Term 2の授業で、時系列としては、今回の国際商事仲裁のテストを落としたが先でした。そのため、ぼくが、KCLの学則を目を皿にしてチェックしたのは、実はこのときです。

一度Failを取ってしまったので、再試験でどれだけ良い点数を取っても50点というキャップがかかってしまうことは知っていましたが、100人超の受講生の中で最下位というのはショックが大きすぎるので、リベンジしてやろうと、このとき心に誓いました。

再試験

ぼくのように科目を落としてしまった生徒には、Term 3(だいたい6月~8月)に再試験が設定されることになります。普通の生徒は、Term 3には授業もテストもありません。がっつり修士論文の準備を行う期間です。

試験摘要の発表

そんな事情もあって、Term 3の試験については、学生課の対応もかなり適当です。7月下旬になっても、まだテスト日の連絡が来ません。ぼくの方から8月に入って問い合わせをしてみたところ、「ここに日程表がアップロードされているよ」と返信がきました。見てみると、めっちゃ分かりにくい階層にアップされていました。

日程表には、テスト日は8月15日10時から、24時間の自宅でのオープンブック形式の試験であると記載されています。

前回のテストは制限時間8時間だったので、再試験だから緩くなったのだと思い、安心しました。そこから約2週間、修士論文にも取り組みつつ、万が一にも落第することがないように、気合を入れてテスト勉強を始めました。

そして、再テスト当日

前日にしっかり睡眠を取って、10時ぴったりに問題を開きます。今回もそれなりに高度なことが訊かれていましたが、1月のテストをしっかり復習していれば、質問の視点が異なるだけで実質的に同じことを問うていることが分かる良問でした。

前回と同じく、5問中3問に回答する形式です。
ぼくは、まず最も点数が稼げそうな問題をチョイスして、回答を作り始めます。

16時を過ぎたころ、1問目の下書きが完成します。この調子なら、24時には全問回答して、余裕をもって提出が出来そうです。

回答は所定のWordファイルに追記する形で行わないといけないため、テンプレートをダウンロードするため、ポータルに戻ります。

ここで、とある記載を発見します。
黄色のアンダーラインを見てください。

提出時間を間違える痛恨のミス

要綱には、24時間と書いていたはずが、やっぱり前回と同じ8時間しか回答時間が与えられていないことをこのとき初めて知ります。(あとから分かったことですが、試験日の3日前ぐらいに、試験時間の訂正の連絡が学内のアドレスに届いていました。ぼくは、そのときブリストルのバルーンフェスティバルに出かけていて、メールを見逃していたのです。)

このとき既に16時30分。残り2問を1時間30分で回答する必要があります。

この1時間30分が、ぼくのイギリス留学のハイライトだったと思います(笑)もし、この試験を落としてしまったら、ぼくはLLMを取れません。大急ぎで回答を作成します。

走馬灯って本当に浮かぶんですね。キーボードを大急ぎで打ち込みながら、フライトの前日に成田空港のホテルで眠れずにうずくまっていたときの情景が脳裏に浮かんでしました。

ギリギリ提出に間に合う、、、?

この時ばかりは、背に腹を変えられず、DeepLの力を借りました。出来る限りの知識を日本語で吐き出して、DeepLに英語の素案を作ってもらいます。それをぼくが手直しして、英語の回答にしていきました。

結局、回答が出来上ったのは17時58分。
手汗びっしょりの手でマウスを握り、ポータルのアップロードボックスに出来上がったWordファイルをドロップします。

画面の中央でクルクルと矢印がしばらく回り、直後に「Submitted」との表示が出ました。

ほっと胸をなでおろしたのもつかの間、学内のメールアドレスに提出確認のメールが届きました。

You have successfully submitted the file XXXXX to the assignment Reassessments/Deferrals ONLY- Due 15 August 2023 by 18:00: Part 1 in the class 7FFLL530 INTERNATIONAL COMMERCIAL ARBITRATION(22~23 SEM1 000001) on 15-Aug-2023 06:01PM. Your submission id is XXXXXXX. Your full digital receipt can be viewed and printed from the assignment inbox or from the print/download button in the document viewer.

間に合ってない、、。

血の気が引きました。オリエンテーションのときから、Late Submissionは理由に関わらず0点だと口酸っぱく言われていたことが脳裏に浮かびます。

学則を見直しましたが、再々試験を要求できそうな根拠は見当たりません。この科目の履修が認定されないということは、修士(LLM)の学位が得られないことを意味します。

ぼくの場合、Graduate Visaを利用して、修了後もしばらくイギリスに残り、ロンドンの法律事務所で研修を受けることを予定していました。しかし、学位が得られないと、Graduate Visaも発給されません。ロンドンでの研修も破談です。もっと言えば、日本の事務所にこの状況をどう説明すべきなんでしょう。

途方に暮れたぼくは、藁にもすがる思いで、学生課にメールをしました。
あまりにもぼくが落ち込んでいたので、いつもは塩対応の妻が、ぼくを慰めてくれたほどです。

救いの手

翌日の朝、いつもは、どれだけ簡単な質問であっても返信に3、4日もかける学生課から、すぐに返答がきました。

In this instance, I can confirm that you will not be penalised for submitting your examination at 18:01.

正直、SQEをクリアしたときより嬉しかったです(笑)
一時は最悪の事態も想定しましたが、なんとか首の皮一枚でつながりました。学生課の仕事のクオリティには困ってばかりでしたが、このときばかりは、パソコンのモニターの前で手を合わせました。

試験結果(第2回)

提出遅れによる0点ペナルティは回避したものの、3問中2問は大急ぎで準備したDeepL産の回答です。もしかしたらFailもあるかもと心配していました。

しかし、結果は61点のMeritでした。

Distinctionを取るつもりで勉強していたので悔しい思いはありますが、何より無事に学位を取得できることになりそうで、ホッとしました。

こうして、しくじりまくった国際商事仲裁でしたが、なんとか単位を取得でき、2023年12月1日に、KCLのロースクールを修了することできました。

おわりに

ここまでお読みいただき、どうもありがとうございました。
おそらく、ここまで崖っぷちに立たされた英国のロースクール生はいないんじゃないかと思います(笑)

逆に言えば、ここまで致命的な失敗を続けても、何とか卒業させてくれようとするのが、KCLのロースクールです。ほかのロースクールの事情は分かりませんが、健康上の理由以外で弁護士で学位を取れなかった人を、ぼくはまだ聞いたことが無いので、同じようなものなのではないかと信じています。

これから英国の大学院で学ばれる方は、ぜひぼくの失敗を他山の石にして頂き、充実した留学生活を過ごしてほしいと思います。
どうもありがとうございました!


弁護士のイギリス留学に関するいろいろなことを書いています。
よければ、ぜひご覧ください!

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