近刊検索デルタから電子書籍販売サイトへのリンクを設定する際に痛感した電子書籍のユニークID問題について

2021年5月5日、近刊検索デルタの個別書誌情報ページに電子書籍へのリンクを表示するようにしました。予約段階では Amazon Kindle と BOOK★WALKER 、刊行後はさらに honto と Kinoppy へのリンクが表示されます。扱いがあるか否かを判定しているので、扱いがなければリンクそのものが表示されません。ぜひ、ご活用ください。

あちこちのAPIと格闘して、なかなか思うようには進んでいませんが、まずはGWの間に現時点での成果として公開するつもりだったのでホッとしています。

近刊検索デルタのオンライン書店へのリンクをアフィリエイトリンクに置き換える作業を進める中で、「電子書籍もいけるのではないか」と思ったのが始まりでしたが、某所のAPIそのものが以前より明らかに複雑化していたりということもあり、当初の予想よりだいぶ手間取っています。

電子書籍へのリンクについては仕事に直結する課題でもありました。数はそこまで多くはありませんが、弊社も電子書籍を刊行しています。少しでも売れてくれるように自社サイトから電子書籍販売サイトにリンクを貼っていますが、書名で検索してリンクを設定しているため、うまくリンクが表示されない場合も多く困っていました。また、電子書籍へのリンクを個別に設定していると一括での処理が面倒なので、そこもなんとかしたいところです。

個人で動かしているサイト(近刊検索デルタなど)で試してから会社のサイトに導入するというサイクルは以前からなので、今回もそうするつもりで取りかかり始めたのです。ところが、なかなか思うように進められなかったのは上述の通りです。

なかなかうまくいかなかったのは、電子書籍には紙の出版物のISBNに相当する共通のユニークIDが存在しない、からです(いちおうあるにはありますが使われてますか?)。紙の出版物の場合はISBNコードが小売・流通で使えるユニークIDとして徹底されています。もちろん、オンライン書店や出版社の自社サイトなどでは独自のコードを使っている場合も少なくありません。ですが、ASP(アフィリエイト・サービス・プロバイダー)の提供する商品検索API(アプリケーション・プログラミング・インターフェイス)を利用することで、ISBNをユニークIDとして個別の商品情報を正確に抽出することができます。

ボーンデジタル(元になる紙の本がなく最初からデジタルデータとして制作された電子書籍)を除くと、多くの電子書籍は元になった紙の本が存在しています。この「元になった本」のことを底本と言います。底本には当然のことながらISBNが付いています。

当初、APIで得られる個別の電子書籍の情報の中に底本のISBNが含まれていれば特定は簡単だろうと考えていました。ですが、ISBNで特定するためには、まずはざっくり書名などで絞り込み、その中から底本のISBNが一致するものを探すという方法を取らざるを得ません。

実際に「書名・著者名・出版社名」での紐付けに挑戦してみたのですが、すぐに無理があることに気が付きました。例えば『◯◯(■)特装版』や『◎◎ ✕✕編(上)』などというタイトルの本があったとして、人間が見れば「これは『◯◯』という本のシリーズで最新刊の第■巻だな、それの特装版か」「こっちは『◎◎』というシリーズの✕✕編の上巻か」などとすぐに判別できますが、それをプログラムとして細かく場合分けするのはかなり大変です。「そういうのは機械学習で」という意見もあるかと思います。確かにこういうのはAIプログラムの得意なところだろうとは思いますが、AIなど使わずともユニークIDが使えれば簡単確実に済む話なのです。

ということで、どうにかして底本のISBNコードと電子書籍とを紐付ける方向でできないか、その方法を模索してみることにしました。

いくつかのAPIでは底本のISBNから比較的簡単に電子書籍を絞り込むことができました。今回先行して公開した4サイトがそうです。ですが、その4サイトのうち honto と Kinoppy は「予約」の場合APIからうまく結果が返ってきません。予約と刊行済でステータスが違うということもなく、どうやら刊行後でないとAPIから結果が返ってこないようです。どちらのサイトでも電子書籍の予約は可能なので、今後、APIの運用を見直していただけるとありがたいです。

しかし、思った以上に多くのサイトで、底本のISBNからAPI経由で電子書籍の情報を得ることができません。現状、ここで壁に当たっています。

個別にAPIを公開している某オンライン書店にはお問合せフォームから「入力項目に底本ISBNを加えて欲しい」と送ってみましたが、連休開けにどういう返事が来るか、今から期待しています。

電子書籍専業の販売サイトは紙の本との併売もあまり見られないので、そもそも底本のISBNを持っていないという可能性もあります。そうなるとリンクを設定するのはかなり難しそうです。

電子書籍の販売促進は中小零細出版社にとって悩ましい問題です。紙の本の場合は「店頭」という販促の場への働きかけとその結果としての「店頭露出」が非常に有効でした。ですが、電子書籍の場合は販売サイトへの働きかけでの「露出効果」はそれほど期待できません。そうなるとどうしても「値引き」や「ためし読み」などが重要になります。前者の効果は大きいのですが、「ためし読み」についても「全文公開」など思いきった手法でなければリーチはほとんど期待できない状態です。

店頭を経由せずにオンラインでの販売を主とした場合にも全く同じ問題が発生します。紙の本の場合はまだ「新聞書評」や「レビューサイト」などでの露出が販促につながる場合もありますが、電子書籍の場合はそういうこともありません。

電子書籍の「発見されにくさ(ディスカバラビリティ)」の問題をどうしたら解決できるのかですが、ひとつの可能性としてアフィリエイトの拡大は考えられるはずです。その際、ユニークIDが使えると多くのアフィリエイトサイトやレビューサイトなどでの露出が増える可能性は高いです。実際、紙の本はISBNという共通のユニークIDがあるおかげでオンライン上のアフィリエイトリンクとしての露出を大きく確保しています。

底本ISBNから電子書籍のアフィリエイトリンクの生成が簡単になると、書店がアフィリエイターとして自社サイトで電子書籍を売ることにも可能性が生まれてきます。現状、電子書籍のアフィリエイト料率は紙の本と比べてかなり高めですが、例えばASPと書店とをつなぐアフィリエイトのプライベートプログラムがあれば、それ以上の料率の還元も可能になります。ベストセラーの店頭在庫が売り切れた場合でも店舗を応援する消費者がその書店のサイトから電子書籍を購入することで店舗への還元が可能になるわけです。

ここから先はまったくの憶測でしかありませんが、提携したトーハンとメディアドゥが考えているのはそういうことなのかもしれません。そうでないかもしれません。もちろん「書店のWebサイトで電子書籍を売ったって幾らにもならないんじゃないの」という声もあるかとは思いますが、書店店頭で電子書籍売るのと比べたらどっちがどっちとはなかなか言えないのではないでしょうか。Webでアフィリエイトだと営業時間外も稼げますし地理的な制約もありませんから。

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