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出版社が出すプレスリリースについて

先日、KADOKAWAさんの無料で利用できるプレスリリース配信サービス「PressWalker」に『英語で説明する日本の文化[新装改訂版]』の新刊発売のリリースを流しました。

書籍の新刊発売はニュースバリューがまったくないので「インバウンド観光のV字回復のためには語学力でしょ!」的な内容を絡めてみました。金曜日の終業間際に慌てて書いたので文章がボロボロです。勢いがあるとご理解いただけると幸いです。

実は、弊社では過去に新刊発売のプレスリリースを出していた時期があります。正確には二度、そういう時期がありました。

一度目は、たまたま時宜にあったと思える企画が形になった際に、なんとかその話題を盛り上げたいという思いからでした。内容もさることながら他の出版社とフォーマットとコンセプトを揃えて姉妹本として刊行するというのもなかなか面白い試みで、拙いプレスリリースにもそれなり反応がありました。しかも、直接的にプレスリリースの影響ではありませんが、テレビで取り上げていただくという機会も。なかなかない経験でした。

これで味をしめました。プレスリリースはイケると勘違いしてしまいました。

当時は無料のプレスリリース配信サービスが多数ありました。また、大手の全国紙でもメールでプレスリリースの受付を行なっており、気軽に送ることが可能でした。もちろん、取り上げられることは滅多にありませんが、それでも送ると少しは反応がある気がするので「次も頑張ろう」となるわけです。

そんなことを何度か繰り返していたところで、いつものようにメールで受付窓口に新刊発売のリリースを送った大手全国紙から丁寧な返信が返ってきました。かなり丁寧に言葉を選んで書かれていましたが、要は「新刊が出ました」みたいなリリースを送られても取り上げないし送らなくていいから、という内容です。理由については「出版社の新刊発売の案内にはニュースバリューがない」と明確に書かれていました。何度か送った後でしたが、先方もこんなリリースを毎回送られても困ると思ったのでしょう。気持ちは分かります。ですが、ちょっとむかついたのも事実です。さすがに大手の全国紙はエラそうだなと、その時は思いました。思いましたが、「ニュースバリューがない」という指摘については「確かに」とも思ったのです。

それ以降、私はプレスリリースを送るのをやめました。というか、ビギナーズラックの最初の一発を除くと反応も無かったのです。いや、自分のやってることが無駄だと思うのは悲しいので、効果はあると思いこんでいたのです。ですが、よく考えてみると「プレスリリースを拝見しました」という広告代理店から売り込みが増えただけでした。こりゃダメだなと気がついたのです。

しかし、それからしばらくして、プレスリリースを送る別の機会がやってきました。今度は「版元ドットコム」で団体としてプレスリリース配信会社と契約したのです。つまり団体割引のような手軽な料金で有料のサービスが使えるのです。過去に自分が送ったプレスリリースでは有料の配信サービスは一切使っていませんでした。有料の配信サービスの場合は確実に掲載される媒体があるようで、それだけでもやってみる価値はありそうです。

プレスリリースについては過去の経験があるので、「有料のサービスだからって、そんなにうまくいくのかな」という疑念もありました。「そうは言っても出版社の新刊発売のリリースにはニュースバリューがないから無理だろ」とも思っていました。思っていただけでなく、けっこう乗り気な他の版元ドットコム会員社の前ではっきりとそう喋った気がします。

とはいえ、有料のサービスをお手軽な料金で使えるのであればやってみない手はありません。とりあえず、おためしとして使ってみました。結果は予想通り無反応。もちろん最低限の有料サービスの掲載媒体には載ったはずです。そこはさすがに有料なので。

インターネットやITが普及していく中で、広告や販促の効果はそれ以前と比べて非常に明確になってきています。出版業界では書店の販売データが取得できるようになって以後、広告や販促の効果測定はよりシビアに「店頭実売」で判断されるようになりました。プレスリリースにせよ広告にせよ書店販促にせよ、「店頭実売」という明確な結果から逃れられなくなったとも言えます。

二回目のチャレンジでは以前よりさらに店頭実売などよく見たつもりです。日次のデータは効果測定に必須です。そこで変化が見られないのであれば効果は無かったと言うしかありません。オンライン書店での反応などもしっかり見極める必要があります。そのあたりも様々な方法が用いられるようになりました。私が過去にビギナーズラックで面白い反応を得た時以上に様々な計測方法は進化していたのです。

残念ながら二回目のチャレンジの効果は実売にはまったく反映されませんでした。実売に反映されなくとも書店からの注文に結びつき店頭での露出が確保できるという、そういう展開もありませんでした。はっきり言うと、やるだけ無駄だったのです。

有料プレスリリースの団体利用は契約期間の間は続きました。その間、もう一回ぐらいは出したかも。でもそれも無風でした。

ここで問題にしたいのは「プレスリリースは出すだけ無駄」ということではありません。プレスリリースを有効に活用してニュース媒体に取り上げてもらえたら、いつもと違う広範囲の読者に向けて本の存在を告知することができます。それは間違いありません。

問題は「出版社の新刊発売の案内にはニュースバリューがない」という大手全国紙の方からの指摘です。出版社の側にどんなに思い入れがあろうが「こんな本が出ました」だけではニュースとして媒体で取り上げられることはありません。そこがわからないままプレスリリースを送っても無駄だということです。

では、「ニュースバリューとは何か」ですが、それはここでは書きません。というか書くまでもなく皆さん分かってらっしゃるのではないかと思います。ニュースになるということは単純に「本が出ました」ではないです。

残念ながらニュースになるような本というのは、小零細だろうが大手だろうが、なかなかありません。しかし、ニュースになるようなヒトやニュースになるようなコトはたくさんあります。その新刊がニュースになるようなヒトやコトとどう関わっているか、そこがポイントです。というか、プレスリリースにはそこが求められています。

KADOKAWAさんの「PressWalker」は無料で使えるプレスリリース配信サービスがほとんどなくなってしまった中で非常にありがたい存在です。ニュース媒体側に「これなら扱いたい!」と思ってもらえるような良質のリリースが集まると、サービスの価値も高まります。「本が出ました!」というニュースバリューのないプレスリリースで埋め尽くされることがないことを願っています。プレスリリースは店頭販促が難しい電子書籍などでも活用が期待される手段です。今、改めて取り組むことには様々な意味があるはずです。

今回私が送ったプレスリリースはかなり無理やり他の話題と結びつけようとしています。うまくいったかどうかはともかく「ああ、この話題と結びつけたいのだな」ぐらいは伝わったかと思います。というかそうであって欲しいです。無事配信されて、これからの反応が楽しみです(全然ダメかもしれませんが、それならそれで「やっぱりか」ぐらいの気持ちです)。

さて、ビギナーズラックでテレビで取り上げられた一冊ですが、結果はどうだったかというと、残念ながら惨敗でした。試みとしては悪くなかったんだろうと思います。時宜にも適っていました。となると企画の敗北ということになります。その本、企画も構成も販促も広告宣伝も全部私がやったんですよ。販促も広告宣伝もそこそこハマったのに売上だけが見事に惨敗で、あれ以降、社内でどんな企画を出しても説得力が無くなってしまいました。自業自得。無念です。


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