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64 展望台

男はのぼりのエスカレーターに乗った。丘の上の展望台へ出る、所要時間二分の長いエスカレーターだった。歩き疲れた男は、乗ると同時に目をつむり、束の間の休息をはかることにした。

頭の中でたっぷり一分も数えたあと目を開けると、男は一向に上が見えてこないことに気がついた。さらに十秒、二十秒経っても状況は変わらなかった。何かがおかしかった。

あっという間に所要時間の二分が過ぎた。降り口はまだ影も形も見えなかった。男の脳裏に「永遠に着かないエスカレーター」という言葉がよぎった。どうにかして次元の狭間に迷い込み、永遠に着かないエスカレーターに乗ってしまったのだ。このまま二度ともとの世界に戻れないのではないか――。

男はあわてて辺りを見回した。すぐ後ろに乗り口があった。それは電源が入っていないだけだった。



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