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42 野次馬

男は火事を見物することが何よりも好きだった。燃え盛る炎を見ると、体中からアドレナリンが吹き出して異常に興奮するのだ。より広い面積を焼く、被害の大きい火事ほど興奮は高まった。

消防車のサイレンを耳にすると、男はいてもたってもいられなくなり仕事を放り出して現場に駆けつけた。

いつも最前列で鎮火まで見物するので、男の髪の毛は常にちりちりだった。近くで食い入るように炎を見つめるため、目も焼けて視力も落ちる一方だった。ついにはほとんどものが見えなくなってしまった。

それでも男は火事場見物をやめられなかった。肌で炎を感じようとしてますます火に近づくようになったのだ。

あるとき、男は川向こうで起きた二階建て木造住宅の火事の現場に駆けつけた。規制線の最前列で火の粉と灰を浴びてうっとりしていると、燃え盛る建物から火だるまになった犠牲者が飛び出してきた。

犠牲者が助けを求めて突っ込んでくると、野次馬たちは蜘蛛の子を散らしたように逃げ出した。目の見えない男は一人逃げ遅れた。男は犠牲者に抱きつかれ、もろとも火だるまになった。

男は自分でもわけが分からないまま叫び声を上げたが、それは苦痛と歓喜の入り交じったものだった。気がつくと、男は二度と離すものかと言わんばかりに相手をきつく抱き返していた。

二人の頭上に炎が渦巻いた。男は途切れることなく苦痛と歓喜の入り交じった声を上げ続け、立ったまま焼かれた。



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